小西隆裕
第二回朝米首脳会談が双方の合意を見ないまま不調に終わった。
その理由を、米国側は、朝鮮側の「全面制裁解除」要求に応じられなかったためとしている。
これに対し朝鮮側は、直ちに反論し、「全面」ではなく、民生分野の「一部」の解除を求めただけだと主張した。
どちらが本当か。そこで想起すべきは、朝鮮側が「非核化」と「制裁解除」を行動対行動で段階的に進めることを提起し、米国側もそれに同意していたことだ。
にもかかわらず、なぜ、当の朝鮮側がいくつかの段階を踏むことなく一挙に「全面制裁解除」を要求したりするだろうか。
普通あり得ないことだ。そのあり得ないことがなぜなされたのか。それを根拠づける話しとして米国側から流されているのが、この間行われた米本国でのトランプの元顧問弁護士、コーエンに対する下院公聴会だ。
公聴会では、トランプの「ロシア疑惑」等々が証言された。トランプは、歴史的な朝米首脳会談を翌日に控えた身でありながら、CNNトップで大々的に流されたその模様を夜を徹して見入っていたという。
このトランプ大統領の進退を左右する重大事にあって、朝鮮側はその「弱み」につけ込み、段階的ではなく、一挙に全面制裁解除を求めてきたというのだ。
しかしそれにしても不思議なのは、なぜ米国が、コーエンのこの公聴会をよりによって朝米首脳会談当日にぶつけてきたのだろうか。
一つ考えられるのは、朝鮮の「全面制裁解除」要求を誘い、「会談」の破綻を狙ったというシナリオだ。
しかし、この「公聴会」に朝鮮側がトランプの「弱み」を見たというのは解せない話しだ。朝鮮にとってそれよりはるかに大きな問題は、トランプの「失脚」問題に他ならないからだ。よく言われるように、朝鮮は、トランプ大統領の任期中での朝米交渉の成功を目指していた。その朝鮮にとって、「弱み」か「失脚」かどちらが問題かは歴然としている。
一方、当のトランプにとっては、「失脚」はさらに決定的だ。
もはや「会談」の合意どころではない。そのための妥協などすれば、非難の的になるだけだ。
トランプが「全面制裁解除」を口実に、合意もせず席を立ったのはそのために違いない。
こうしてみると「コーエン公聴会」の目的は明確だ。
「会談」の破綻だ。
では、米国はなぜ「会談」を破綻させたのか。
その背景には、米国が南北朝鮮と「同床異夢」で推し進めてきた東北アジア新時代がこのところ南北朝鮮主導で進展するようになってきているという事情があると思う。
第二回朝米首脳会談は、それを加速するのが確実だった。
民生分野の一部制裁解除は、南北の経済協力を一段と促進し、南北融和と統一に決定的に作用するものとなったし、朝米に続いて予定された南北首脳のソウル会談が統一気運を最高度に盛り上げ、その中で文在寅大統領と金正恩委員長の権威が国の内外で決定的に高まるようになるのも目に見えていた。
それが東北アジア新時代に米国の新たな覇権の展望を見る米国にとって、決して面白いものでなかったのは明らかだ。
「会談」を不調に終わらせる企図が生まれたのは、その辺からだったのではないかと思う。
実際それにより、南北の経済協力は滞り、文在寅政権のへの支持率が下がり、金正恩委員長の南や世界での権威に霧がかかる、等々が生まれてくるだろう。
しかし、戦争と敵対から平和と繁栄へ、この東北アジアの時代的転換が押し止められたり逆転されたりすることはないだろう。
なぜなら、それが広く東北アジアの人々と国々の要求であり、米国にもこれ以外に道はないからだ。
「同床異夢」で進む東北アジア新時代の新たな段階にあって、今回の事態の教訓は、忘れてはならないだろう。