「日本が売られる」

魚本公博

新聞の広告欄に堤未果さんの著書「日本が売られる」の広告が載っていた。

周知のように、堤さんは「貧困大国 アメリカ」などの本で、米国が日本に「門戸開放」を要求している農業や保健・医療などの分野が米巨大コングロマリッドに支配され、農民は「農奴」の境遇に追いやられ、国民の生命(医療)、食の安全が脅かされている実態を現地ルポの形で明らかにしつつ、そうしたコングロマリッドが日本を狙っていることに警戒を呼びかけてきた人である。

その新刊書が「日本が売られる」。是非読んでみたい本だが、すぐに入手できないのが残念。しかし、その広告を見るだけでも大体のことが推測される。

そこには、「『市場開放』、『成長戦略』という美名のもと、アメリカ、中国、EUに私たちの国は売り飛ばされている」「水と安全はタダ同然。医療と介護は世界トップ。そんな日本に今、とんでもない魔の手が伸びている。水やコメ、海や森や農地、国民皆保険や公教育、食の安全や個人情報など、日本が誇る貴重な資源は次々と安価な値札がつけられ、叩き売りにされているのだ」とある。

そして、その「売り飛ばされ」「叩き売りされている」ものとして、「水、土、タネ、ミツバチ、食の選択肢、牛乳、農地、森、海、築地、労働者、日本人の仕事、ブラック企業対策、ギャンブル、学校、医療、老後、個人情報」など18の項目をあげている。その中には、これまで私が「議々論々」で取り上げてきた水道や農業、医療分野についても「水が売られる」(水道法改正)、「種子が売られる」(種子法廃止)、「医療が売られる」(国保消滅)、「食の選択肢がなくなる」(遺伝子組み換え食品表示消滅)などとある。

まさに我が意を得たりであるが、それ以上に感心するのは、「日本が売られる」ということをズバリ打ち出していることである。これまで日本は対米従属(日米安保基軸)でやってきた。そして今、米国が日本の国・国民の全ての富を奪う日米融合一体化を狙う事態の中にあって、あろうことか為政者自身、政財界のトップがそれを受け入れ「日本を売ろうとしている」としているということ。まさに、これこそが今日の日米関係の核心、日本の問題の核心なのだと思う。

その「売られる」中に「地方」もある。「地方制度改革」の名で「地方消滅」の危機感を煽りながら「選択と集中」して連携中枢都市圏を作り、ここに外資を呼び込み、これまで市町村などの基礎自治体が所有管理していた公共事業をコンセッション方式で米国企業に売却し、それをもって国自体を米国に売却するという国家路線。地方は「日本を売る」テコにされているということだ。

もう一つ残念なのは、ここに金融や軍事がないことだ。それは堤さんの守備範囲を超えるものだからだろうか。しかし、これこそが根幹であり、この根幹が「売られる」ことで、「日本の全てが売られる」事態になっているということなのではないだろうか。

「日本が売られる」。根幹の軍事、金融から、水道、農業、医療、商業・流通など「全ての分野」で、地方をテコにした「日本売り」が為政者によって行われようとしている。この是非をめぐっての議論が今こそ問われている時はないと思う。