-新防衛大綱の本質-宇宙戦争でも「米軍に売られる自衛隊」

若林盛亮

昨年末、閣議決定された「新防衛大綱」の内容面で、小型空母導入と共に目を引いたのが、「宇宙、サイバー空間など新たな領域での防衛力強化」だ。

これについて昨年暮れのTBS「報道1930」で「“宇宙戦争の時代”-日本の安保は」と題して詳しい解説があった。

この番組によると、新防衛大綱への「宇宙領域での防衛力強化」は、米トランプ政権の新たに打ち出した「宇宙軍創設」に連動するもの、とのことだ。

そもそもこの米宇宙軍創設は、中国の「衛星破壊実験成功」など宇宙への軍事進出に対処する必要から生まれたものだという。

なぜ米国が宇宙軍創設を必要とするのか? その答えは、今や米軍のいっさいの軍事行動が宇宙空間からの情報、指揮に頼るものになっているから、ということだ。

例えば、地上3万6000km上空の静止衛星(地球の自転周期に同調軌道上ゆえ地球から見て同位置に静止状態)は「敵」ミサイル基地を定点観測でき、熱源探知の機能を備えるがゆえに、ミサイル発射直前の燃料注入を探知してミサイル発射予知機能を有する、また地上2万kmには「測位衛星」がGPS装置に連動して「敵」の正確な位置を地上軍に報せる、また1000km上空には画像収集衛星が地球を回りながら「敵」基地などのジャスト・イン・タイムの鮮明な映像を送る。こうした宇宙空間の軍事衛星からの情報、指揮機能によって米軍事作戦は遂行される。米国は500余個の世界最大の衛星保有国(中国は200個を目標に第二の衛星保有国をめざす)であり、宇宙戦争の圧倒優位に立つ国だ。

逆に言えば、米軍の最大の弱点もここにある。もし情報や指揮を司る衛星が機能停止に陥れば、膨大な米軍事力はただの「棒きれ」にも及ばない「無能力な鉄くず」になるからだ。ゆえに「衛星破壊能力」を持つようになった中国が戦略支援部隊(宇宙・サイバー部隊とされる)を創設(2015年)し、「月の裏側に着陸」という超高度な衛星打ち上げ(今年1月8日)技術を持つようになったことは、米軍の最大の強みが「最大の弱点」に一変する危険の到来を意味する。

「敵の国々はすでに宇宙を戦争領域に変えてしまった。アメリカはこの挑戦を受けて立つ」とペンス副大統領は言明した。

米トランプ政権の「宇宙軍創設」発表と時を同じくして、安倍政権の「新防衛大綱」に「宇宙領域にまで防衛力強化」が謳われたのは、米国のこの要請に応えるものだ。

日本の自衛隊に要請されるのは次の二点だという。

その一つは、膨大に散在する「宇宙のゴミ」(ロケット破片や不要になった衛星の破片など)との衝突による軍事衛星破壊を避ける「ゴミ探知、衛星誘導」技術提供だとされる。

第二には、「宇宙分野での作戦支援」、例えば「敵の攻撃」などでGPS機能直結の「測位衛星」が破壊され機能停止に陥った場合、日本の自衛隊が日本の「測位衛星」を使って代替機能を果たす「協力対処」。これはすでに「シュリーバー・ウオーゲーム」として日米の宇宙空間机上演習が行われているという。

この第二の「宇宙分野での作戦支援」、これはイラクやアフガンで行った敵国攻撃のため弾道ミサイル誘導や無人機誘導など「米軍の戦争作戦支援」に直結するもので、わが国「憲法9条」自衛隊の「専守防衛の逸脱」、敵国攻撃作戦協力に他ならない。

これを安倍政権は「わが国にとっても脅威」なら「安保法制」に則る集団的自衛権行使一部容認の範囲内であり「合憲」だとしている。しかし米軍が行う中国や「北朝鮮」に向けて弾道ミサイルや無人機で攻撃する「宇宙戦争」作戦に協力すれば、日本の自衛隊は米軍の対中国、対「北朝鮮」戦争に自動的に編入されるということだ。「安保法制」でいくら「合憲」だとわめいても、米軍の攻撃作戦を支援すれば自衛隊は米軍同様、敵軍として攻撃されても文句は言えない。

今回の新防衛大綱が、防衛省、自衛隊幹部、自民党“国防族”、さらには日本の防衛産業など日本の国防の「現場」の頭越しに決められたものだというのは、前回も述べたように日本のマスコミも指摘することだ。

結局、日本の国防の現場の必要からではなく、一旦有事に「米軍事攻撃作戦のための自衛隊に」それが今回の「新防衛大綱」の本質だと言っても過言ではないと思う。「小型空母導入」もそうだが、専守防衛を越えて敵国攻撃の「宇宙戦争」作戦に協力する自衛隊に変わるということは、宇宙戦争でも日本の自衛隊を「米国に売る」ものだ。