-「護衛艦の空母化」に自衛隊から異論-「国防に穴が空く」と反対する海空自・元司令官たち

若林盛亮

安倍首相の「おもてなし外交」と言われた先の日米首脳会談だが、最後にして最大のイベントが米太平洋艦隊と海上自衛隊が共に司令部を置く横須賀で行われた。

空母への改修が決まった自衛隊の「いずも」型護衛艦、「かが」甲板上に待つ安倍首相夫妻が米軍ヘリから降り立つトランプ大統領夫妻を迎え、その「かが」艦載機格納庫において史上初という日米兵士500人を前に日米首脳が演説することで式典の最高潮を演出した。

両首脳は空母化の決まった護衛艦「かが」の意義を、それぞれ「地域の公共財として日米同盟のさらなる強化」の役割を果たすもの(安倍首相)、また「米日両国がこの地域とより広い地域で・・・防衛の助けに」なるもの(トランプ大統領)だと絶賛した。

これに対して日本の防衛を担う現場からは反対論が続出している。

護衛艦空母化に反対を表明したのは、BSフジ「プライムニュース」に出演した元海上自衛隊司令官・香田洋二海将、元自衛隊航空支援集団司令官・織田邦男空将という国防の現場を知る両氏である。

香田氏の反論の主旨は「国防に大きな穴が空く」悪結果をもたらすというものだ。

護衛艦というのは搭載した対潜水艦ヘリコプターによる索敵と撃破という対潜水艦作戦任務のために運用されているものであり、「空の領域」作戦を想定していない。だからこの護衛艦をあえて空母に改修し戦闘機を搭載、対空作戦まで担わすとするならば、「国防に大きな穴が空く」というのが香田氏の反論の基本だ。

「国防に穴が空く」主要な根拠は、日本では対潜水艦用に「いずも」と「かが」の二隻の護衛艦体制をとって海上交通路の安全確保体制をとっているが、それは各護衛艦1隻当たり「敵」潜水艦4隻を担当できる能力を備えるという想定の下に日本の海上交通路の安全を保つという綿密な国防計画下で配備されたものが護衛艦「いずも」と「かが」だということ。だから一時的にせよ一隻でも他の任務に転用されればたちまち日本の対潜水艦防衛体制に「大穴」を空けるものとなる。

また元戦闘機パイロットでもあった織田氏の反論は、「(海上に空母が必要なほど)広い地域での対空能力向上」が必要なら、香田氏の言う「国防に穴を空ける」リスクを犯して無理に護衛艦の空母化を図るより、硫黄島に戦闘機用の飛行場を建設し、ここにF35Aステルス戦闘機とAWACS(早期警戒機:戦闘機に必要な情報を送る情報収集機)や空中給油機を置けば済む問題ではないのかというものだ。そしてまた「国防に穴を空ける」リスクを承知でわざわざ対潜水艦用の護衛艦を小型空母に改修し、さらには小型の空母でも離着陸可能だからと150億円もする短距離離陸・垂直着陸用戦闘機F35Bという通常のF35A(100億円)より1機当たり50億円も高価な買い物をする必要もない。

他にも、もし戦闘機を空母化された護衛艦「かが」に搭載するなら、給油タンク(戦闘機は膨大な燃料を食う)及び弾薬(戦闘機搭載ミサイルなど)庫などの設置が必要だが、いまの「かが」にそんな余裕はないが、これをどうするのか? など実践の現場からは疑問百出というのが現状だ。

討論を終えて元海上自衛艦隊司令官・香田氏の「提言」の言葉は、「リセット」すなわち「国民の安全と国防の観点から綿密な検討、見直しが必要」ということ、「いずも」型護衛艦の空母化という防衛計画大綱には長時間の検討の痕跡がない、一言でいってずさんなものだということだ。

横須賀で日米首脳が絶賛した「地域の公共財として日米同盟強化」や「日米両国のインド・太平洋地域の防衛」に役立つという「短距離離陸・垂直着陸のF35B搭載可能の護衛艦空母化」は、日本の国防という観点からは「穴だらけ」のものというのが、現場の軍事を知る専門家の意見だ。

問題は国防の現場が異を唱えるような「自衛隊護衛艦の空母化」を日米首脳が絶賛するというのは、「日本の国防」を考えたものではなく他の目的があるということ、このことを考える必要があると思う。