小型空母保有で「自衛隊が売られる」

若林盛亮

堤未果さんの著書「日本が売られる」が大きな反響を呼んでいるが、いまや「自衛隊が売られる」事態が起きている。

18日、安倍政権は「防衛計画の大綱(防衛大綱)」と「中期防衛力整備計画(中期防)」を閣議決定、その重要骨子の一つが、海上自衛隊の「いずも」型護衛艦を改修し、事実上「空母化」そのものにすることを防衛大綱と中期防に明記するというものだ。

この「いずも」型護衛艦はヘリコプター搭載の飛行甲板を持つ「限りなく空母に近い」ものだが、これをさらに改修して短距離離陸と垂直着陸可能なステルス型戦闘機F35Bを搭載できるようにした小型空母にするというものだが、事実上の戦闘機艦載「航空母艦」を自衛隊が保有することになる。中期防にはF35Bの42機購入が盛り込まれる。

小型空母を「多機能の護衛艦」と言い換えてまで国民の目を欺き、日本国防の戦略的大綱である防衛大綱に「小型空母保有」を明記したことは、戦後日本の安保防衛路線の大きなターニング・ポイントとなるだろう。

これは何を意味するのか?

空母は「動く航空基地」であり、遠洋からでも戦闘機が飛ばせる。日本の航空自衛隊基地からは不可能でも日本海上から朝鮮や中国のミサイル基地など「敵基地攻撃」が可能になる。自衛隊が敵基地攻撃能力を持つということだ。それは憲法9条下の専守防衛の自衛隊ではなくなるということであり、事実上の憲法9条改憲だ。

しかしそれよりもっと重大な問題がこれには隠されている。それは「自衛隊が売られる」ということだ。

戦後日本の安保防衛路線は「憲法9条・専守防衛の自衛隊=盾」+「日米安保・攻撃能力保有の米軍=矛」の二本立てというふうに、自衛隊は「盾」、米軍は「矛」と役割分担を明確にしてきた。このことによって、かろうじて自衛隊の「独自性」(かっこ付きだが)を保ってきた。しかし自衛隊が小型空母保有など「矛の一部」を担わされることによって、「日本国憲法9条下の自衛隊」として「盾」の役割に限定するとしてきた「独自性」までが失われる。日米安保下の米軍の「矛の一部」を担う軍隊になれということだ。

「盾」から「矛の一部」へ、それは自衛隊の日米安保軍化であり、自衛隊が米軍指揮下の日米共同戦争を担う米軍の付属軍隊にされるということだ。堤未果さん風に言えば、アメリカに「自衛隊が売られる」! そんな重大局面を迎えるようになったと言える。

日本の自衛隊がいくら攻撃能力を保有するとしても、圧倒的な核やミサイル、原子力空母を持つ米軍には遠く及ばないだろう。だとすれば、日米安保下での「敵基地攻撃能力保有」=「矛の一部」の自衛隊は有事には指揮権もとれず、米軍にいいように使われるだけの完全な手先、「使い捨て」軍隊になるしかない。自衛隊の「小型空母」は、有事には米軍のF35B用の空母としても動員される。

しかも「違憲の航空母艦」と批判されないために戦闘機艦載は有事のみ、日常は飛行甲板には戦闘機もない空母が日本の海に浮かぶことになる。「空っぽの空母」を運行させられる自衛官はどんな気持ちになるだろう。

現に海上自衛隊のある幹部自衛官は「運用構想があって、何に使うかを考えるのが本来なのに、空母化ありきで進んでいる印象だ。現場は困る」と案じる。別の幹部も「戦術的に意味を持つような気がしない」と語るなど、すでに現場では混乱が生じる気配濃厚だ。

アメリカに「自衛隊が売られる」ことを現場自衛官自身が肌で感じているはずだ。