文在寅著「運命」を読んで

赤木志郎

現在、日韓関係の悪化のなかで文在寅大統領にたいする日本側の風当たりも強くなっている。自民党政治家のなかでは「親北」「反日」大統領として「何をしているのか!」という怒りまで聞こえてくる。そんな中で、文在寅著「運命」を読んでみた。

なぜ「運命」なのか? 

貧しい家庭で勉強ができ、学生運動や厳しい軍隊服務を経ながらも司法試験に合格し、希望の判事にはなれず、弁護士となった。そこで出会ったのが、盧武鉉弁護士だった。釜山にて共に合同事務所を開き、労働争議など人権弁護士として活躍する。それがやりがいの仕事だった。

元来、政治家を志向していなかった。しかし、盧武鉉大統領の誕生とともに、否応なしに政界に引き入れられる。周知のように、盧武鉉大統領は自殺した。文在寅氏は、朴クネイ大統領を弾劾する民衆の「ろうそく革命」を背景に、盧武鉉大統領の遺志を継いでいこうと決心し、大統領になった。その経緯を描いたのがこの書だった。盧武鉉大統領に導かれ、はからずも大統領となった「運命」を描いている。

そこから「親北」や「反日」ではなく、民衆とともに呼吸をし、そこに生きがいを見出している茶目っけで素朴で謙虚な人物像が見えてくる。

この書を読んで、文在寅大統領と心を開いて語り合える日本の政治家がどれほどいるのだろうかと思った。自民党政治家たちの言っていることは、民衆を抑えることができないのかという言葉にしか聞こえない。それは、自分たちは日本の民衆を抑え込んでいるという傲慢な響きでもある。

民意を無視し抑え、時代の流れに逆らう政治家はいずれ葬りさられるだろう。今、求められているのは、民衆とともに歩んでいく政治家ではないだろうか。