よど号LIFE 2020年3月号

「隔離解除」

小西隆裕 2020年3月20日

新型コロナウイルス感染症関連の監視対象として外国人が隔離されてから一ヶ月、ようやく私たちもその境遇から解放されることとなった。

ピョンヤン市内に出ての買い物など、外国人の行ける商店は限られているが、できるようになった。

しかしそれにしても、朝鮮の「コロナ」対策の徹底ぶりは半端ではない。

国境を世界に先駆け全面封鎖したのに続き、学校は、4月半ばまで一斉休校。職場なども、生産活動や人々の生活に深く関わるところ以外は、活動停止。もちろん、各種集まりや公演、体育競技などもすべて中止。

こうした処置を見て、日本や米国などでは、朝鮮内部での感染状況の劣悪さ悲惨さを推し量ったり、逆に、一旦感染が生じたら、その「爆発」を抑えられない医療体制の不備、貧弱さを言ったりしているようだ。

しかし、私たち自身の体験やこの間見聞きする「隔離解除」の進展情況などから思うのは、そうした「憶測」がどれもかなり的はずれなのではということだ。

今、日本でやるべきは、そうした「憶測」を科学的根拠もなくあれこれ思いめぐらすことではなく、国が国民の生命と安全を守るためどのように自らの役割を果たすべきか考えることではないだろうか。

パンデミック宣言が出され、これからいよいよ深刻の度を増す今回の新型コロナウイルス禍にあって、中国や韓国、そして朝鮮などで示されている「国」が果たす役割の大きさについて、その経験に学ぶとともに、この間のグローバリズムと新自由主義で国境がなくなり、国民の命と安全を守る「国」が弱体化した欧米、そして日本が直面している困難から多くの教訓をつかむ必要が生まれているのではないかと思う。

新型コロナウィルス禍の春、凍りつくスポーツ界

若林盛亮 2020年3月20日

朝鮮ツツジの蕾がふくらみ始め、「村」には春の兆し。

私たちの「よど号日本人村」LIFEに関して言えば、新型コロナウィルス封じ込めの一環として「外国人居住地から出てはいけない」通達が、1ヶ月経過して一部緩和され、今週から買い物には行けることになった。

中国や韓国で封じ込め、拡大阻止が功を奏し始めた中で欧州、米国、日本では逆に拡大一途のコロナ感染、せっかくの桜も花見自粛で日本の春は遠くにかすんだ感がある。

スポーツ界にとっては春どころか全てが凍てつく冬の季節到来だ。

センバツ高校野球、プロ野球、Jリーグなども開催中止、延期に追い込まれている。さらには東京五輪も安倍首相の「開催に変更はない」強気発言にもかかわらず大勢は延期に傾きつつあるし、事実もう無理だと思う。

東京五輪に向けて体調管理、戦術錬磨を続けてきた選手やチームにとって延期、さらには中止は「死の宣告」にも等しい。「この日」のために血のにじむ努力で準備してきたことが全て無に帰すことは耐え難い苦痛だろう。さらに再開のメドが立たない中でモチベーションを維持することはさらに困難なことだと察する。大学受験が中止になった時の受験生を想像すればわかるが、突然、目標が消えてしまうような一大事だ。

英プレミア・サッカー、リヴァプールのサポーターである私にとっても「欧州五大リーグ全てが中断、延期の決断」のニュースは、青天の霹靂。

今季は二位を圧倒する勝ち点差「25」、残り9試合を二位チームが全勝したとしてもあと二戦勝てばリヴァプール優勝確定という時期、29年ぶりのリーグ優勝は熱烈ファンにとって悲願、待ちわびた快挙、それがやっと実現するかという終盤戦を目前に中止、延期。これは全身が凍り付くほどの事件だ。冬にリヴァプールに移籍した南野拓実選手もこれから徐々にチームの戦術に馴染み、試合出場機会を増やしレギュラーの座を獲得するチャンスが消えてしまう。

もちろん感染拡大の恐怖の渦中では「たかがスポーツ」、されどスポーツ。一日も早い新型コロナウィルス禍の終息を願わずにはいられない。

赤木志郎 2020年3月20日

気味が悪い、気が合う、気になる、元気・・・と気を使った言葉が多いのは、日本語の特徴のひとつだ。ひとつの集団の中で濃厚な人間関係から人間のもつ「気」への敏感さが発達したのかもしれない。

気を感じる程度は人によって異なる。訪朝した支援者の方で「自分は幽霊が見えるのでいやだ」と話していた人がいた。また、宗教関係者の方に気を背中にあててもらうと背中がすごく熱くなるのを感じたことがある。キリストをはじめ宗教家は皆、手かざしで病を治せるほど強烈な気を発する人だそうだ。

私はどちらかと言えば、気に敏感な方だ。高校生のときラグビー部に属して練習前の準備運動をやっていたとき、固いラグビー・ボールが後ろから頭に向かってくるのを感じ、一瞬、頭を下げるとボールが頭上を通りすぎていった。また、大学生のとき、赤軍派の活動をはじめてまもない頃、九州大学の寮にいたとき、ある朝、胸が締め付けられるように痛いのだ。新聞を見ると、同志社大学で赤軍派とブントとの内ゲバがあり負傷者、逮捕者が出たという報道が大きく出ていた。私はこのニュースを新聞で見て家族が私のことを心配しているのだと感じた。田中義三が亡くなったときは大晦日の深夜でTVのまえで座ったままうつらうつらしていたとき、田中の霊が上を回っているのを感じた。

気に敏感であるのも良いかも知れないが、大切なことは人のことよく気づくことだと思う。日本人、あるいは仲間、家族という集団の一員として他の人をどれだけ気遣うかで、随分、生き方が異なってくる。しかし、歳とともに気も衰えていく。その衰えを感じながら、それも気のもちかたによって違うのだと己を励ましている。

よど農園も「正常」運営

魚本公博 2020年3月20日

世界的なコロナ騒動の中、ここ朝鮮では、外国人は「居住区域で隔離」という方針の下、私たちも2月中旬から「村で隔離」でしたが、最近これが解除され、今週から市内に買い物に出ることができるようになりました。まだ外国人も行ける特定の商店という制限付きですが。

眼前のテドン江で建設用に砂利を採取し運搬する船の往来も多くなりました。徹底した防疫体制を敷いた結果、「正常化」への動きも早いようです。毎日、テレビや新聞で防疫を呼びかけての挙国一致体制。それを一々言う積もりはありませんが、「なるほど」と思ったことの一つを。感染の仲介物として気付かないようなものを挙げて注意を促し手洗いを奨励していたことです。そこでは、カバン、スマホ、キーボード、マウスなどと共に「紙幣」を挙げていました。日本の報道では、そうした注意など聞いたこともなく朝鮮の徹底ぶりに感心しました。

暖冬の今年、農作業準備も早まりそうなのですが、そこで困ったのが苗や種の入手。これまで市場で入手していたのですが当分、市場には行けそうもない。それを知った知り合いの人から、種や苗は私が買ってきてあげるとのありがたい申し出。我がよど農園も「正常」に農作業開始できそうです。

それにしても、コロナ禍の最中にある日本のことが心配です。何とかこの難局を乗り切って欲しいと願うばかりです。

忘れられそうな花

森順子 2020年3月20日

3月は一番お花が売れる季節だそうです。卒業式やお別れ会などいろいろなイベントがあるからです。ところが、今年はこの「新型コロナウイルス禍」のために自粛、自粛で、花の存在が忘れられそうで、生産地の千葉県の館山では40%の出荷しかできないと困っているようです。そこに農業省の偉い方が出てきて「3月は、ホワイトデーがあります。ぜひ、ぜひ、お花を贈ってあげてください」と宣伝していたのですが・・・。

3月8日は、「国際婦人デー」です。つまり「女性たちの日」であり、女性たちのお祭りでもあります。この日は女性たちに花を、そして、ホワイトデーは、男性たちに花を、としたら、どんなにいいでしょうか。男性も女性も、そして館山のお花もきっと笑顔になると思うのですが。しかし、日本は、世界での男女格差121位です。これでは「ホワイトデーに花を」としかなりませんね。

今は皆、コロナ問題で不安と心配を抱えて生活している状況ですが、職場や家庭にお花を飾れば、いくらか気持ちもほぐれるかもしれないと思います。

-心温まるお話を-10歳の“嘆願書”「負けてください」に返信したサッカー監督

若林盛亮 2020年3月5日

新型コロナウィルス禍拡大で不安の渦中にある日本の皆さんに趣味のサッカーを語るのははばかれることだが、今回のはとてもいいお話、少し心を温めてもらえればと思う。

「これは文句です。リヴァプールは負けてください。お願いです」

10歳の少年が英プレミアリーグで圧倒的な強さを誇っているリヴァプールのユルゲン・クロップ監督に対してこんな“嘆願書”を出した。

「親愛なるユルゲン・クロップさんへ。僕の名前はダラーです。10歳です。アイルランドの学校に通っています。マンチェスター・ユナイテッドが好きです。手紙を書いたのは、文句を言いたかったからです」

ここまでのリーグ戦26試合で25勝1分け無敗という成績でリヴァプールは、30年ぶりの英プレミアリーグ制覇をほぼ手中に収めている。このことにライバルチームの少年ファンが「文句を言いたかった」のだ。

「リヴァプールは多くの試合に勝ちすぎです。あと9試合このままならイングランドで一番の無敗記録を残すチームになっちゃいます。ユナイテッドのファンはすごく悲しいです・・・だから次の試合で負けてくれませんか。お願いです」

ファンレターはよくあることだろうが、まさかの“アンチ・ファンレター”。だが、驚くことに、クロップ監督本人からの返信があったとのことだ。

クロップ監督は、ダラー君の“嘆願書”に対して、以下のように答えたという。

「親愛なるダラー。まずは手紙をくれたお礼を言いたい。・・・残念ながら君のリクエストを受けることはできないんだ。君がリヴァプールの負けを望むことと同じように、世界の何百万というリヴァプールを応援してくれる人たちが我々の勝利や優勝を願っている。だから私はそれができるように頑張らないといけない。同じように、私は彼らを失望させたくないんだ」とまず自分のチームのために最善を尽くすことを少年に告げた。

しかし10歳とはいえ、フットボール・ファンに対する敬意を払うことを忘れなかった。

「そして私は同時に、一つ変わらないことを君に言うことができる。それは、君の応援しているクラブとフットボールへの情熱だ。マンチェスター・ユナイテッドは君のようなファンがいて、とても幸運だ。・・・私たちは偉大なライバルだが、お互いに大きな敬意を分かち合うことができる存在だ」と。

そして最後を次の言葉で締めくくった。

「今回のものは、私にとってフットボールがどういうものであるかと教えてくれた。今後の君の幸運を祈る。 ユルゲン・クロップより」

これにいちいち説明はヤボ。ただひとつ私が感動したことを。

「どうか負けてください」などというライバルチームのファンからの手紙、しかも差出人は10歳の少年、「なにを戯言を」とふつうは無視するものだろう。

クロップの場合は違った。

この少年のフットボール愛から発したアンチ・ファンレター、愛するチーム、マンチェスター・ユナイテッドのためにサポーターの自分に何ができるかと懸命に考えた末の敵監督への“嘆願書”、この“嘆願書”に10歳のフットボール魂を見、感動できるクロップ監督は凄いと思う。

また「私にフットボールとはどういうものかと教えてくれた」と10歳に学ぶことができ、感謝の言葉が言える、その人間性には正直言って惚れた。

リヴァプールはいい監督に恵まれたと私は感謝!

新型コロナウイルス

赤木志郎 2020年3月5日

れんぎょうやつつじが新芽を出し、鳥たちも空を舞い、春の近づきを告げている。しかし、今年の春はいつもの春ではなく、憂鬱な春となっている。

TVニュースを見ても、中国、日本、韓国、香港だけでなく、イタリア、フランスなど世界各国で道行く人は皆、マスクをしている。各国で感染者が多い国ないし地域からの入国を禁止する措置をとっている。もはや世界的な流行だ。

私も予防のために、毎日の塩水でのうがい、風邪にひかないようにすること、手洗いの励行など、元来、普段すべきことを励行するようになった。報道では個体衛生だけでなく環境衛生も強調されている。清掃を徹底的におこなわなければならない。

新型コロナウイルスで死亡するのは、ほとんど老人で、そのうち喫煙者が多いとのこと。私など感染すればもうアウトだ。隔離された日本人村にて保護されているようなものだ。

市内に出かけることもできず、多少、不便はあるが、あまり変わりなく暮らしている。

新型コロナの流行から、感染症の恐ろしさ、それに対する国の対処のありかた、衛生観念の重要さなどなど、教訓とすべきことが多い。一日も早い終息を願いたい。

城下カレー

魚本公博 2020年3月5日

前々回、故郷・大分の「関アジ」のことを書きましたが、今回は「城下カレイ」。関アジと同様、深夜番組で放映されていたもの。

「城下カレイ」はご存じのように大分、日出(ひじ)町の昔からの有名な特産物。日出の海には、山からの沸き水が出ている所があり、その栄養分で豊富なプランクトンが発生し、それを食べて育つカレイは丸々と太り美味。それを江戸時代、日出・木下藩が「城下カレイ」と命名しブランド化したもの。日出藩は将軍家への献上品にし、その名が全国に広がったわけです。

日出町は、私の故郷・別府の隣の町。小さな町で、「平成の大合併」で当然、合併さるような町なのですが、合併に加わらず、こうした特産物をもって町を振興させていることを知りうれしくなりました。番組を見ても、私が日本に居た頃は、瓦屋の家屋が並ぶだけの辺鄙な町だったのですが、あちこちにビルが立ち、町も随分大きくなっているようでした。

番組では、「城下カレイ」を繁殖させる地元の努力の一端を紹介していました。一つは稚魚を育てての放流。カレイは稚魚段階では食が細く育てるのが難しいのだそうですが、試行錯誤して育てる技術を開発。他にもカレイの住みかとして海藻場を造成する事業も紹介されていました。

そうした取り組みを町全体として後押しする。海藻の植え付けや稚魚の放流に喜々として参加する子供たちの笑顔。そして目を引いたのが、ここに大分の県漁協が事務所をもち、県単位で支援していること。さすが「一村一品運動」の大分だけのことはあると思いました。

様々なものが互いに連関し循環して全体を活況化させる経済。地域循環型経済の一つの見本を見たようで感銘を受けましたし、地域振興は、この方法でやらなくっちゃとの思いを強くしました。

老婆心だろうか?

若林佐喜子 2020年3月5日

日射しに温もりを感じる今日この頃です。日本人村では、先日、稲わらの覆いを外されたバラの木が元気に風に吹かれているのを発見。しかし、私の心は・・。

今、朝鮮は、「一瞬も緊張感を失くすことなく、新型コロナウイルス感染症を防ぐための対策を・・」と全国的に総動員体制です。教育機関は2月までの春休みが延長になり自宅学習に。手洗いと消毒、マスク使用が徹底化され、テレビのアナウンサーはやっていませんが、現地からのニュース画面では屋外、室内でみなマスク着用です。工場や商店は運営されていますが、それ以外の建物は封鎖で部外者は入れないようです。在留外国人は、居住地域での隔離で私たちも村から外出禁止。週一の買い物も出来ませんが、基本的な食料は供給を受け、コーヒー、たばこなどの嗜好品は依頼すれば購入できます。ですので、生活の不便さより、健康を見守ってもらっているのが実感です。

むしろ、日本の知人に介護業界で働く人が多いので心配する毎日です。先日、日本から届いたメールに、桜の開花写真とともに、1時間半以上並んでやっとマスク1箱と消毒液をゲット。生活への影響、学校休校による保護者の負担増などの心配が記されていました。

そのような状況での、麻生太郎財務相の「つまんないことを聞くねえ」発言の新聞記事には唖然とするばかりでした。休校措置による国の臨時支出について問うた記者に対する言葉です。昨年の年金問題での「2000万円」発言と言い、本当にこのお方は庶民と住む世界が違うのだと思い知らされ、心が折れてしまいました。救いは、記者が「国民の関心ごとですよ」と言い返したとのこと。もっと大きな記事にすればよいのにと思わずつぶやいてしまいました。政府の要人がこのような態度だから、国民が苦労を強いられるのだとつくづく思います。

わが身を異国の安全地帯に置きながらで恐縮ですが、老婆心ばかりが先立つ3月の私です。