改憲論議の一つ「地方分権」を考える

魚本公博

●改憲論議で地方分権が課題にされそうだ
今回の総選挙での安倍自民党圧勝を受け、改憲策動が強まることは必至。その主目的は、もちろん9条改憲。しかし国民の護憲意識は強い。そこで、先ず「改憲論議」をとなっており、「知る権利」や「環境権」などが言われ、その一つに「地方分権」がある。

これを強く主張しているのが小池百合子氏。今回の総選挙でも希望の党の公約に「憲法論議を進める」としながら「地方分権」をあげ、「改憲論議は先ず、ここから」と強調している。すなわち、「地方から日本をリセットする」と。

ポスト安倍と目される石破茂氏も「日本列島創成論」で、「明治以来の中央と地方の関係を根底から変え」、これによって「日本国のあり方を根底から変えるもの」と言っている。

どうも「地方分権」は、「知る権利」「環境権」などと違って、「日本を変える」という次元の根本的な問題提起としてあるようだ。そうであれば、彼らが言う「地方分権」とはどのようなものなのか。彼らは何を狙い、日本をどう変えようとしているのか。それを考えねばならないと思う。

●元々、地方分権は米国の要求である
90年代に入って米国は「日米構造協議」を通じて、日本社会の構造改革を要求してきた。米国とすれば、日本株式会社と言われるような閉鎖的な社会構造を変えて、米国企業がもっと日本に入れるように「門戸開放」せよ、「規制緩和」せよというものであった。

そこに、「地方分権」促進の要求もある。
この要求に基づいて、95年に、地方分権推進委員会が設置され、4次にわたる勧告を受けて、99年に「地方分権一括法」(施行は01年)が成立した。

日本の地方自治は3割自治と言われるように中央との結合が強く、これも日本株式会社の一構成要素となっている。米国の「地方分権」要求は、これを壊せということである。

TPP交渉でも分かるように国家的な規制緩和は簡単ではない。農業団体や医療団体などのように自民党の支持基盤までもが強く反対する。そこで、自民党は「玉虫色」的なものを示し、議論は進まない、ということになる。

これでは米国は面白くない。小池氏が「規制緩和」について、「お友達のための国家戦略特区ではなく、もっと巾を広げた規制緩和を」と述べているのも、自民党的な「しがらみ」に縛られることなく、門戸を開こうということであり、これは米国の要求とピッタリ合う。

●「外資導入」がクセモノ
今回、「失速」した小池氏だが、「次の次」を狙っている。自身は都知事として「地方政治」に専念して実績を上げ、「三都」連携しなから、「地方から日本を変える」布石を着々と打ってくるのではないか。

そのカギは「外資導入」。小池氏は、主宰する「国策研究会」で、「外資の利用」を研究していると言う。「顧問政治」と揶揄される顧問たちの顔ぶれは、ゴールドマンサックス出身の上山氏を始めコンサルタント会社の経営者の面々。

すでに築地・豊洲問題では、元卸を数社に絞ってゴールドマンサックスが握り、仲卸は観光用に残す以外は淘汰し、ここにアマゾンなどのネット販売・流通を入れるという形が豊洲の「流通センター化」、築地の「食のテーマパーク化」として示されている。

ノウハウにたけ、力ある外資と組めば、「斬新で革新的」な政策を出し、「地方の活性化」の実例も示すことができるだろう。
しかし、外資は外資。その導入を無媒介に許すわけにはいかない。例えば、これまで国家が国民の安全のために規制してきた狂牛病や遺伝子組み換え種子の規制が、「地方分権」下で緩和されればどうなるのか。世界の実例が示すように、遺伝子組み換え種子は地方からでも全国に蔓延しその国の農業を制覇する。

同様のことが保健・医療分野でも起きるし、金融、製造業、流通など経済の根幹部分でも起きる。それは、日米の経済融合一体化を進めるし、そうなれば軍事の一体化・手先化が国益かのようになっていくという寸法だ。

●やはり国との関係の中で
今、地方は、「地方消滅」が言われるほどの深刻な状況にある。しかし、それをもたらしたものは、政府が米国発のグローバリズムに乗って産業空洞化促進などの地方切り捨て策を採ったからではないか。

結局、地方問題は、国の政策と密接不可分の関係にあるということである。それなのに、国との中央集権的な構造を解体するかのような「地方分権」を進め、国の代わりに「外資」に頼れとするのでは、本当の地方再生にはならないし、その弊害も大きいと思う。

いずれにしても決めるのは民意であり、地方のことは地方・地域住民が決めるべきである。では民意が求める地方自治はどういうものなのか。論議は多岐に渡るが、米国の意に沿うような「地方分権」と対峙できるものを地方住民自身が模索していく、そのことが問われていると思う。

そのための初歩的な議論提起だが、どうだろうか。