今、なぜ立憲主義なのか?

赤木志郎

選挙公示直前に生まれ、綱領も組織的基盤もなかった立憲民主党は、わずか2週間たらずの間に多くの支持を受け野党第一党となった。現在も支持率を14%にと、他の野党を圧倒するほど支持を伸ばしている。

立憲民主党にたいする国民の期待は、立憲主義と呼ばれる考え方に賛同しているからではないだろうか。国民から支持を得た立憲民主党が掲げているその価値観、立憲主義について考えてみたい。

日本は日本の憲法を基準にして
周知のように、立憲主義は2年前の安保法制に反対する闘いのなかで生まれた。集団的自衛権行使容認にもとづく安保法制は、日米共同戦争体制を確立するというもので、「二度と戦争をしない国」を誓ったはずの憲法を否定するものだった。そこから立憲主義が掲げられるようになった。

今回の総選挙では、安倍政権は改憲に着手することを明らかにし、安倍政権に代わる政党(受け皿)として登場した希望の党は、安保法制と改憲を踏み絵にした。憲法否定の新たな政党が生まれ、改憲勢力で議会が占められるという虞があった。

そこで、「枝野立て!」という国民の声におされて立憲民主党が生まれた。このことは、2年前の安保法制反対闘争の中で掲げられた立憲主義が、立憲主義を掲げる政党を生み出すまでに強くかつ広範な国民の中にまで根を下ろしたといえると思う。

立憲主義はもともと英国で国王や貴族の専制支配にたいし憲法に従わせるというところから生まれた。国の骨幹を憲法に据えることによって、いわば「権力を縛る」ことによって、専制支配を防ぎ国民の意思を守るという民主主義原理が確立された。だから、国民主権と立憲主義はかたく結びついている。

日本の場合、立憲主義を確立したのは、国民主権が明示された現憲法が制定されたときだった。しかし、制定当時は占領軍のもとでの占領軍に適用されない制限を受けた憲法であり、独立後も日米安保条約が憲法に優先されてきた。そういう意味で、これまで立憲主義が完全には確立されていなかったといえる。

安保法制はアメリカの要求(アーミーテージー対日報告書)によるものであり、それに応え、安倍首相がアメリカの国会で約束し、その後、日本で強行採決したものである。いわば、アメリカの意思により憲法が踏みにじられたものだ。憲法の上にアメリカの意思があれば、国民の意思を反映させる民主主義などありえない。

それゆえ、「一法案に憲法を従わせるのは民主主義の否定だ!」と叫んだ国民大衆が求めた立憲主義は、アメリカの意思より日本の憲法を優先させる立憲主義であったといえる。それは対米追随勢力を憲法で縛り、アメリカに対し憲法否定を許さないというものだ。このように日本における立憲主義は対米自主の性格をもっているといえる。

立憲主義を価値観とする立憲民主党を国民が生み出し、さらにいっそう期待が高まっているということは、日本は日本の憲法を基準にして政治をおこなっていくべきとする国民の要求が高まっていることの反映ではないかと思う。

「二度と戦争をしない国」という立ち位置
憲法は国の立ち位置、世界とアジアにしめる日本の地位と役割、国のあり方を示した国の骨幹である。

現憲法は言うまでもなく、先の戦争の惨禍を経て、生まれた「二度と戦争しない国」という立ち位置を明示した平和主義を核心とする憲法だ。だから、憲法制定当時、絶対多数の国民が歓迎し支持した。

戦争で犠牲となった数千万アジア諸国人民と、数百万同胞を失い塗炭の苦しみを味わった日本国民が、二度と戦争をしないことを誓い、制定されたのが、現憲法だ。

今やその平和と民主主義の価値観は、国民の中にすでに定着しているといえる。

かつての改憲論は、日本が独立国として自らの武力をもつべきという括弧付きの自主的な改憲論だった。今日、安倍首相が主張する改憲論は、それと正反対の米軍の指揮のもとアメリカと共同戦争体制を確立すべきという、対米追随の改憲論である。それは、「二度と戦争をしない国」という日本の国の立ち位置、あり方を否定し、徹底したアメリカの属国、侵略戦争の尖兵としての日本に変えるというものである。

したがって、立憲主義は、「戦争をする国」になるのではなく、「二度と戦争をしない国」という日本の立ち位置、アジアと世界に占める地位と役割、日本のあり方を国民の手で確固とせんとする国民の強い意志だと思う。

政治を永田町から国民の手に
立憲主義は民主主義と結びついている。
安倍首相は、安保法制の国会審議のときに、「決めるのは私です」と述べた。国会が形骸化し、安倍独裁が横行している端的な表れだといえる。かくして、多数を占めた自公与党と官僚、すなわち永田町が、総理の「ご意向」を忖度しすべてを決定している。

その結果、安保問題だけでなく、原発、格差問題、雇用、社会保障などで、ことごとく国民の意思を否定され、独占企業とアメリカに都合のいいように政策が決定されている。

今日の立憲主義は、憲法を生かしそれを基準にして原発政策や格差社会の是正など国民の生活を守る国のあり方に、これまでのアメリカと独占企業優先の社会から根本的に変えていく要求が反映されていると思う。

今回の総選挙で立憲民主党の登場を人々が熱烈に歓迎したのも、多くの国民が自分の手で政治を動かすことが出来るという感触を感じたからだと思う。

したがって、立憲主義をかかげ「草の根民主主義」の民意によって政治をおこなっていくのが、今日の国民の要求だといえる。
立憲主義は今日の国民大衆の自主、平和、民主への志向と要求を反映した理念だということができる。

この日本における立憲主義の闘いは、世界各地で主権意識の高まりによる主権確立、自国第一主義の潮流と無関係ではない。

アメリカの覇権が崩壊していくなかで、日本では立憲主義を掲げることによって、主権を確立し、日本の国民主権を実現していく闘いとなって表れているといえる。日本における立憲主義はまさにこの時代的潮流を反映し、それに合流していくものであると思う。

まさにそれゆえ、日本における立憲主義を掲げた闘いはさらに勝利的に前進していくだろう。