赤木志郎
正月の時事議論の番組で、長谷部幸洋氏(東京新聞・中日新聞論説委員)が、「安倍首相こそリベラルだ」と主張していたことに驚いた。元A級戦犯だった祖父岸信介を崇めてやまず、秘密保護法、安保法制、共謀罪の法律を設け、朝鮮にたいする危機意識を煽り、軍備拡大をすすめている安倍首相のどこがリベラルなのか、と思った。
長谷部氏は、リベラルは大きな政府志向というヨーロッパの基準から見て、大盤振る舞いをする安倍首相がリベラルで、野党は財政の健全化を言うからリベラルではないと言う。そんな馬鹿なという気持ちだった。
ところが、問題はそう簡単ではないらしい。最近の若者に対する意識調査では、共産党がもっとも保守で、維新などがリベラルだと考えられているという。そういう意味では自民党がリベラルだと言えないこともない。田中愛治氏(早稲田大教授)によると、若者が旧来の左右の対立軸ではなく、「現状維持か、改革なのか」という対立軸で見ているからだという。若者は改革を志向し、古い枠組みにしがみつく現状維持を望んでいないから、都民ファーストが勝利し、排除という左右の区別をした希望の党が失墜したのだと説明する。
若者が旧来の左右の軸で見ていないというのは事実だと思うが、総選挙で若者が自民党に投票したのは自民党が改革派、ないしリベラルだからなのだろうか?
別の世論調査や取材では、先の総選挙で若者の多くが現状に満足し改革に反対したゆえ自民党を選んだという。これまでの改革(都民ファースト、民主党政権、橋下維新、小泉政権などなど)でろくなことがなかった。消去法でとりあえず自民党しかないという。改革の筆頭と見られていた維新は後退し、2大保守政党制にすると言った希望の党も惨敗を喫した。一方、リベラルと見られる立憲民主党が大躍進した。
TVで取材を受けた若者10人皆が、現状に満足しているが、古い枠組みはいやだ、将来に大きな不安を感じているという。現状に満足しながら、将来への不安がある。ということは、ほんとうに現状に満足しているのではなく、不安で一杯で、もうこれ以上、悪くなって欲しくないという意味で現状維持を望んでいるということではないだろうか。実際、若者や人々の生活は不安だ。ある若者の集会で大学生が、「若者の保守化」と関連して「ブラックバイトや奨学金の返済のために、社会に目を向けられない。明日が今日よりよくなるという希望がない」と語っていました。多額の奨学金返済のためバイトに明け暮れる毎日、終身雇用など望めないなどの現状を考えればそう思わざるを得ない。高齢化少子化による人口減と地方の消滅、科学技術の停滞、実感できない経済成長など、日本全体が先行きが見えず不安につつまれていることも関連していよう。
それゆえ、自民党を選んだ若者はけっして今日の不安な社会をもたらした自民党を信頼している訳ではない。多くの若者は不安のない社会を切実に求めているといえる。それは平和で戦争をしない国、格差が少なく国民が就職と生活、教育と社会保障で心配のない社会ではないだろうか。つまり、若者はほんとうは現状維持でも保守でもなく、心配と不安のない新しい社会、さらに言えばそれを実現していく政権を望んでいると私は思う。