【今月の視点】何故、素直に喜べないのか

魚本公博

新年、朝鮮情勢は、新年辞で北が平昌冬季オリンピックへの参加を表明したことによって、大きく動き始め、9日には、平昌冬季オリンピック参加に関する南北「対話」が始まった。

韓国では官民あげて「大歓迎」である。
何よりも先ず、これによって、戦争の危機が大幅に解消したからだ。

この間、「戦争の危機」は、かつてなく高まった。北のミサイル開発に対して米国トランプ政権は「戦争」を云々し、北攻撃を想定した大々的な軍事演習も繰り広げてきた。そして「精神状態に疑問」とされるトランプである。「何をしでかすか分からない」という状況の中で、その危機感はイヤが上にも増すものとなっていた。

その危険性が遠のいたのだから、韓国民が「大歓迎」の声を挙げたのは、当然であり、素直な人間感情であったろう。
ところが日本のマスコミ論調は冷淡。すなわち、9日の南北「対話」を受けた翌日の新聞各紙の論調は、「核を置き去りにするな」(読売社説)、「冷静に非核化へ誘導を」(朝日社説)。「北ペース 融和攻勢」、「北 韓国取りこみ着々」、「北の挑発 激化する恐れ」などというような記事ばかり。

これについては、ネット上では、「何故、素直に喜べないのか」との言葉が飛び交ったそうである。
全く同感である。この戦争は、日本をも巻き込む。
そうであれば、南北対話の実現と進展によって、戦争の危機が解消され平和の方向に進むと言うのは、日本としても諸手をあげて歓迎すべきことではないか。

「何故、素直に喜べないのか」。その言葉は、マスコミだけに向けられたものではない。トランプの戦争姿勢を「100%支持する」とした安倍政権にも向けられている。

彼らが、南北対話の進展を喜ばないのは何故なのか。
それは、この間、安倍政権が押し進めてきた日本の軍事大国化、改憲策動で最大限利用されてきた「北朝鮮脅威」の口実が無くなるからである。

この間、日本の防衛問題は、「北朝鮮脅威」を煽ることで進められた。敵基地攻撃能力をもたなければならないとして、長距離巡航ミサイル、イージス・アショア導入、F35戦闘機購入などなどが決められた。その費用は「際限がない」(防衛関係者)ほどの莫大なもの。

そして改憲。こうなれば日本は何のしばりもなく「戦争する国」になってしまう。しかも敵基地攻撃は日本が担当することになる。米国から見れば、自国兵器を際限なく買ってくれ、米国に代わって戦争までやってくれるというのだから、願ったりかなったりだ。

こんなバカげたことがまかり通っていいのであろうか。
「何故、素直に喜べないのか」という声は、そこにまで至る。

南北対話の進展を前に、マスコミや親米論客が「素直」でない論をまき散らす中で、「何故、素直に喜べないのか」という声は、素朴でありながらも、事の本質を突いた鋭いものだと思う。