トランプによるTPP復帰への示唆が意味すること

小西隆裕

米大統領トランプは、あれほど世界を騒がせたTPP離脱、そしてその後、パリ協定離脱の宣言から一年も経たない先日、この両者への復帰を相次いで示唆した。これが意味することは小さくない。

これを米大統領本来のあるべき姿への回帰として歓迎するのか、まだまだあの「アメリカ・ファースト」を降ろすまで安心できないと「保護主義」への警戒感を緩めないのか、はたまたその真逆に、選挙での国民への公約違反だと怒るのか、反応は様々だ。

そこでまずはっきりさせるべきだと思うのは、この「示唆」がトランプを大統領に押し上げた広範な米国民への裏切りだということだ。あの時米国民は、TPPを米国の産業経済をガタガタにし、広範な米労働者を失業に追い込んだ張本人、グローバリズムの典型、象徴として、そこからの離脱を要求し、トランプにその実現を託した。だからこそ、トランプは、大統領就任早々、世界に向け、その離脱宣言を行ったのではなかったのか。それからわずか一年足らず、この宣言撤回の示唆は、そこに込められた米国民の信任への裏切り以外の何ものでもないと思う。

もう一つは、この「示唆」が「アメリカ・ファースト」を世界に押しつける「アメリカ・ファースト」覇権の破綻をさらけ出したものに他ならないということだ。もともと、米国民が求める「アメリカ・ファースト」は、自分たちの国、米国の利益を蔑ろにし、自分たち、米国民の生活や米国の社会、経済を破壊するグローバリズムに反対し、米国の国益を第一にする政治を求めてのものだった。それは、当然のことながら、トランプの大統領就任演説でも強調されたように、米国だけでなく、すべての国々が自国の国益を第一にすることを認め尊重するというものだった。だがその約束は、この間、現実の米国政治において完全に反故にされてきた。「アメリカ・ファースト」は、各国にとってもそれが国益だと、その受け入れを強要され、「アメリカ覇権・ファースト」へと変容した。これはもはや、「自国第一主義」でも何でもない。完全な米国のエゴの押しつけ、「アメリカ・ファースト」覇権に他ならない。このようなエゴ丸出しの覇権が通用するはずがない。この度行われたトランプによるTPP復帰への示唆は、世界的な非難の嵐に孤立した米国の降伏宣言だと言ってもいいのではないか。

その上で、この「示唆」にはもう一つ意味することがあると思う。それは、もはや覇権そのものが崩壊したということだ。国境を否定し、すべての関税、非関税障壁を原則撤廃するTPPへの復帰は、他でもない、グローバリズムへの復帰、すなわち、破綻が烙印された覇権主義への復帰に他ならない。イラク・アフガン戦争の泥沼化、リーマン・ショック、そして何より、米国をはじめ、世界各国で高揚する自国ファーストの嵐によって、軍事的にも、経済的、政治的にもすでに破綻したグローバル覇権への復帰、ここにしか道がないこと、まさにそこに覇権そのものの崩壊と終焉が示されているのではないかと思う。