魚本公博
「日本は『朝鮮半島』に深入りすべきでない」という本を出した在韓35年の産経新聞記者・黒田勝弘氏へのインタビュー記事が「東洋経済」に載り、それについて、ネット上で感想が交わされていたのを興味深く見た。
黒田氏は「(朝鮮半島には)日本人の心性に触れる他国にはない魅力を感じるのではないか。その魅力は同時に危うさでもある。痛恨の歴史を作ってしまう伏線になるのではないか」と述べながら、「ちょうど今、北朝鮮によるミサイル発射と6回目の核実験で日本は朝鮮半島情勢に巻き込まれている」と指摘する。
「深入り」し「痛恨の歴史を作ってしまった」ものとして、「日清戦争から日韓合併が最たるもの」と見る黒田氏は、今の安倍政権の対朝鮮に、かつて「深入り」し、「痛恨の歴史」を繰り返すものになるのでは無いかという危惧を抱き、だから「深入りするな」ということなのだろう。
今回の平昌オリンピックに際して行われた「安倍-文会談」でも、それが見られた。
ここで安倍首相は、北への圧力強化のために米韓共同軍事演習の実施を要求した。これに対して文在寅大統領は「この問題は我々の主権の問題であり、内政の問題」と反発し、「総理はこの問題を直接取り上げることは困る」と述べた。議員の中には「何様のつもりで、そのような内政干渉をするのか」という声まで上がった。
侵略・植民地化、内政干渉。共に相手の主権を踏みにじるということである。
黒田氏が安倍政権のこうした「深入り」に、かつての「痛恨の歴史」を繰り返す危うさを見て「深入りするな」と警告を発することには、賛意を表する。
その上で、さらに事の本質をよく見るためには、ここで「アメリカ」を見なければならないということを強く言いたい。
日本の対朝鮮半島姿勢の背景には米国があるからである。
安倍=文会談では、もう一つ、従軍慰安婦問題での政府間合意の確認を迫ったが、これは、米国が北に対する「米日韓の連携強化」のために、「解決しろ」と要求し、それに従って、安倍首相が動き、パク・クネ元大統領が応じたものであることは、誰もが知ってることだ。そして、日米韓の連携強化による対北圧力、そのための米韓合同軍事演習の実施要求。すべてが「アメリカ」抜きには語れない。
「アメリカ」を見ないと、事の本質、事実は見えなくなる。前回、西部さんについての文章でも指摘したことだが、これも、その例ではないか。
在韓35年の黒田氏であれば、こういう背景は分かりすぎるほど分かっている筈なのに、そこが残念ではある。