【安保防衛論議その7】小林よしのり「立憲的改憲の国民的論議を!」は傾聴に値する

若林盛亮

「安倍政権下の憲法論議には乗らないというのは、まるで駄々っ子だ」!

これは立憲民主党の枝野代表の姿勢を批判する小林よしのり特有の毒舌だが、安倍首相の改憲攻撃姿勢を見る時、一考の価値ある発言だと私は思う。

枝野代表の「国民の誰も求めていないのに、改憲論議をやるのは安倍首相の個人的趣味だ」としてこれに「乗らない」というのもたしかに一理ある。また旧来の護憲勢力にとって「憲法論議」自体がタブーという現状から「九条擁護勢力」の分裂を避けるという政治的判断からも「乗らない」というのは、当面の政治的選択として理解できる。

しかし今回の安倍政権の改憲企図に対抗するには、憲法論議を国民に広く開かれた形で行うことが、より重要に思える。その意味で小林よしのりの主張は傾聴に値すると思う。

安倍首相の改憲手法は、国民的論議をできるだけ避ける、そして既成事実を積み重ねて国民には追認させるだけ、いわば「眠った子を起こさない」、これが基本のように思う。

石破案のように「九条第二項削除」といった自民党改憲案で行くのが正攻法のはずだが、「それは国民の納得が得られない(政治的には公明党の支持が得られない)」と、たいして論議にもならない「自衛隊合憲の明記」という「現状追認」の形の改憲という姑息な手法こそが「憲法論議を避ける」安倍首相の姿勢を示している。

そしてより重要なことは、論議無用の既成事実を重ねていくという悪辣な改憲手法だ。

安倍政権は、今年末に「敵基地攻撃能力の保有」を明記した「防衛大綱の見直し」を政権の最大課題としている。小野寺防衛大臣は出演したTV番組で「専守防衛の見直し」の可能性にまで踏み込んでいる。これは何を意味するのか?

「敵基地攻撃」は当然、相手国の報復攻撃を呼び交戦状態に突入、つまり戦争に発展する危険性を常にはらむものだ。結論的には「敵基地攻撃能力の保有」は、交戦権否認の憲法九条第二項の否定=交戦権肯定、そして戦争放棄の九条精神の抹殺に行き着くものだ。小野寺防衛大臣が触れた「自衛隊の専守防衛の見直し」とは、「自衛隊の攻撃能力の保有=交戦能力の保有」であり、実質的な九条改憲に他ならない。

既成事実化ということで言えば、すでに今年度防衛予算において射程900kmの巡航ミサイル購入に続いて、小型航空母艦化した自衛隊の護衛艦「いずも」搭載の垂直着陸可能なステルス戦闘機F35B購入が決まった。日本海から平壌に届く射的900km巡航ミサイル保有とは「北朝鮮の敵基地攻撃能力」保有を意味し、航空母艦搭載戦闘機の保有も同様だ。すでに九条改憲は実質的に進んでいるのだ。

こうした国民的論議なしの既成事実を積み重ね、国民に追認させる手法の安倍政権の改憲攻撃を阻止するためには「敵の土俵には乗らない」として憲法論議を避ける従来のやり方はむしろマイナスだ。こちらから憲法論議を仕掛けること、憲法九条精神を反映した立憲日本の防衛はどうあるべきかという国民的議論を広く起こすくらいの心構えが問われるのではないだろうか。

小林よしのりが推す山尾志桜里私案の「立憲的改憲論」も含め大いに憲法論議を起こすことが、安倍政権の姑息な改憲策動阻止の最大の武器になると思う。