魚本公博
この1月、朝鮮が平昌冬季オリンピックへの参加を表明したことによって南北融和が進み、「すわ戦争か」と言われた状況が平和へと進み始めたにも拘わらず、日本のマスコミが「北に騙されるな」というような報道を垂れ流し、それに対してネット上などで「何故、素直に喜べないのか」という声があがったことをもって、そのことを深く考えてみようという趣旨の議論提起をした。
その後、この「平和」への動きは更に加速されている。南北関係のさらなる進展。トランプ大統領の米朝首脳会談受諾表明。そして、金正恩委員長の訪中と中国の全面賛同表明。バッハ会長との会談などなど、事態は急展開中。
そうした中で、「素直に喜べなかった」人たちの表情は「当惑」、「不安」を隠せないものになっている。
プライムニュースに出演した小野寺防衛相は、「トランプ大統領は『あらゆる選択肢が机上にある』と言っている」と述べながら、4月の安倍首相の訪米で日本は、対北政策で米国が強い態度で望むことを要求し、米国がそこに回帰することに期待するかのようなことを言っていた。また宮家邦彦氏などは、「(今後の推移を)見ていればいいのです」と言いながら、同様の期待をしていることを暗に示していた。
先日の「深層ニュース」に出演した中谷防衛相と桜井よしこ氏も同様。そこで桜井氏は一歩踏み込んでこんなことを言っていた。すなわち、このままでいけば、米朝は平和協定を結び国交回復まで行き、米軍撤収まで行ってしまう。
そうなれば、核をもった朝鮮半島(朝鮮)が出現することになる。これを許すんですか、と。これを受けて司会者が「そうですね、トランプ大統領は駐韓米軍撤収を言ってますしね」と中谷氏に質問を向けると、氏は「トランプ大統領は、そんなことは言っていません」と苦渋の表情。しかし、周知のようにトランプ大統領は、「米軍撤収」も口にしている。
支離滅裂。こうした人々は、朝鮮半島で南北融和が進み、平和の動きが加速されることに反対であり、そんなことになるなら「戦争の方がよい」とでも言うのだろうか。しかし、それを口にはできない。そんなことをすれば、日本は世界から総スカンされかねない。今でも「日本は孤立している」と言われているのに、これ以上の醜態はさらせない。
かくて、その言動は、つじつま合わず、その目は虚ろ。
何故そうなるのか。それは、これまでの自分が依って立ってきた「常識」が崩れつつあることへの「不安」「不可解」さの現れとしか言いようがない。それは、覇権国家・米国の凋落であり、覇権があってこそ世界は安定するという覇権主義の考え方そのものが崩壊しているという不安、不可思議さということになるのではないか。
今、これまでの「常識」では理解できない様々なことが世界各地で起きている。欧州で広がる反グローバリズムの「自国第一主義」の台頭。あるいは7年間の内戦で主権擁護を譲らなかったシリア・アサド政権の安定化の動きなども。
それらは全て、覇権主義ではない世界の新たなあり方の動きとして見ることができるのではないか。この客観的事実を素直に認め、考えを改める。そうすれば「不安」や「不可解」さはなくる。かくて「虚ろな目」もしっかりしてくる。
これが私の「虚ろな」目を見ての議論提起だが、どうだろうか。