【安保防衛論議その8】―南北朝鮮が和解と協力へと動く―激変する東アジアの安保環境、迫られる日本の安保防衛政策見直し

若林盛亮

ピョンチャン冬季五輪が南北朝鮮の共同祭典になって以降、すでに南北首脳会談の日程も4月27日と決定、いまピョンヤンでは「釜山港へ帰れ」のチョー・ヨンピルやK-Popのガールズグループなども含む韓国芸術団の公演「春が来る」が市民の一大関心事だ。

この1ヶ月半、世界の関心を集めた南北朝鮮の和解と協力に向かうスピード感、迫力はかなりのものだ。驚くべきことは、南北朝鮮が和解と協力に動くことによって、短期間に多発的、連続的に想定外の政治的出来事が起きていることだ。

「5月までに朝米首脳会談に応じる」と米トランプ大統領を動かした驚きの冷めやらぬなか、誰も予測だにしなかった金正恩委員長の電撃的訪中、これを中国が大歓迎する中で朝中首脳会談が行われ、南北朝鮮の推進する朝鮮半島問題解決の動きを中国の党と政府が歓迎し支持する姿勢を明らかにしたことも世界を驚かせた。

朝鮮半島はその地政学的位置から、かつて帝国主義列強など周辺大国の覇権的野望によって地域情勢が左右される時代が長く続いた。南北分断はその結果でもあった。

ところがいま起こっている現象は、南北朝鮮、当事者が主体となって朝鮮半島問題を解決する時代、「わが民族同士」で分断と敵対の朝鮮民族の悲劇を終わらせる時代になった。さらに言えば、南北朝鮮が主導して大国を動かしているとさえ言える時代になった。

この新しい時代の動きは、わが国を取り巻く東アジアの安保環境を激変させるものとなるだろう。

それは朝中首脳間で合意された次の文言に示唆されている。

「南朝鮮とアメリカが・・・平和実現のために段階的、同時歩調的な措置をとるのであれば、半島非核化問題は解決を得ることができる」(中国外交部WSによる発表文)。

これの意味するところは、「非核化」とは「北朝鮮の非核化ではなく朝鮮半島の非核化」であり、「朝鮮半島の非核化」とは「米国の核の脅威の除去」を含むということだ。その重要な指標となるのが「(朝鮮戦争の)停戦協定から平和協定への転換」に米国が応じること、文在寅大統領の言う「戦争状態終結宣言」を米国が受け入れることだ。

これは東アジアの安保環境を激変させるものとなる。なぜならば、これが在韓米軍の存在根拠を失わせるものとなり、在韓米軍の縮小から撤退を結果させるものとならざるをえないからだ。

これに米国が簡単に応じるとは思えないが、超強硬派のボルトンを大統領安保補佐官に据えようがしまいが、衰退せる覇権帝国、米国に朝鮮との戦争覚悟でこれを押しとどめる力はもはやない。遅かれ早かれのまざるを得なくなるだろう。

この事態は、日本の安保防衛をいかなる方向に舵を切るのか、その分岐点になることは間違いない。

韓国という重要な軍事拠点を当てにできなくなる米国は、アジアにおける唯一無二の米軍事覇権の拠点として日本の米軍基地強化に重点を移し、自衛隊には専守防衛から攻撃能力の保有へといった役割強化、米軍と共に戦争のできる「交戦権肯定(9条改憲)」の軍隊化を強く求めてくるにちがいない。

それは「二度と戦争をしない日本」をめざした日本国民の意思に反する道であることは言うまでもなく、いやおうでもわれわれ日本人は別の選択肢を考えざるを得ない。

その解答は、東アジアの安保環境を激変させた南北朝鮮やこれを支持する中国など東アジアの志向するところにある。それは「アジアの一員」として生きる道、衰えゆく覇権帝国、米国の意に応じるのではなく、アジアの意に応じ日本の安保防衛を見直すもう一つの道だ。これについては次回に考えたいと思う。