「西郷どん」に賭けた三人の女たち

若林盛亮

林真理子原作のNHK大河ドラマ「西郷どん」が面白い。「女性の視点から見た西郷」という点がこれまでにない面白さになっている。「史実に合わない」という批判もあるようだが、ドラマはドラマ、作者の思い入れが入ってよいと思う。

私には「『西郷どん』に賭けた三人の女たち」がとても心に残る。時は幕末だが、封建時代の当時、女性が自分の意思を実現できる場はないに等しい。しかし一人の下級武士に自分の夢と意思を託し貫こうとする「意思力のある女性」をあの時代に登場させた林真理子は凄いと思う。

一人目の女は「いと」、若き西郷どんに恋する女だ。しかしあの時代、武家の女の結婚は親が決める「お家第一の結婚」以外にない。

いとにも縁談が持ち込まれるが、彼女はなかなか頭を縦に振らない。しかし西郷どんにも縁談が来ていることを知った彼女は、自分の恋心を告白しながら、親の決めた縁談を受け入れると自分の決心を西郷どんに告げる。

そして別れ際にいとが西郷どんに託した願い、それは「女が自分の好きな人と結婚できる新しい日本をつくってください!」だった。

二人目の女は「すが」、西郷どんの初婚相手だ。愛想が悪い女、不吉をもたらす女(嫁に来た年に西郷家の祖父、父、母が病死)と陰口をたたかれるが、彼女を西郷どんは庇い励まし愛する。すがもそんな西郷どんを慕う。

その最愛の夫に「江戸行き」の藩命が下る。藩主、島津斎彬の直命だけに西郷どんも感激、この藩命は祖父、父母ら一家の悲願の成就でもあった。だが、すが一人は反対する。その理由は第一に、三〇両の支度金は借金だらけの西郷家に用達が到底不可能という現実。

第二には、「江戸行き」になればいつ帰れるかわからない、自分はとても我慢できないという「妻の言い分」。しかし家人や大久保ら西郷の友人らが「三〇両」の金策に奔走する姿に、自分の夫が西郷家や友人の期待をかなえる人、「藩主・斎彬の志」実現に必要な人であることを悟り、すがはついに意を決する。

実家の父を伴い西郷家に「離縁申し渡し」に来るすが。自分にはとても西郷家は向かないという娘のわがままを許してほしいと謝罪するすがの父、その父が差し出した「手切れ金」! それを見た西郷どんは妻の本心、決意を察する。

西郷家からの帰路、嗚咽と共にすがは父に語る。自分がいたら「夫婦の絆」を優先する、心優しい西郷どんは妻の思いを受け止めるだろう、それは必ず夫の大志の妨げとなる、だから自分は西郷家を出なければならない、と。「手切れ金」は「自分の意思で離縁を迫る妻」の決意表明であり、夫の「江戸行き」を叶えるための最後の愛情表現、自己犠牲的愛の証しだったのだ。

「史実に合わない」と批判のあるのは、この林真理子流の「すが解釈」を指すのだろうが、私にはこの「すが」像がとても心に残る。

三人目の女は誰もが知る「篤姫」、西郷どんが斎彬の命で最初に仕えることになる女性だ。黒船来襲を島津藩活躍の千載一遇の好機と見た斎彬の命を受け篤姫は徳川家定の正室となるべく江戸行きを決意する。篤姫の江戸行きは一橋慶喜を将軍後継に建てる画策のためだが、この時は篤姫も西郷もそれを知らない。

江戸行きを前にしたある日、道中警護を西郷どんに命じた篤姫は、二人きりになる場を設け、「同志の盟約」を西郷どんと交わす。「藩主・斎彬の志を実現するために力を貸してほしい」と。こちらはこれからの展開が楽しみだ。

封建末期にあって「自分の意思を持った女性」を描き出し、彼女らの夢を託された「西郷どん」という、とてもいいお話にした林真理子さんに感謝!