シリーズ・米覇権回復戦略の転換を考える【第4回】トランプによる「アメリカ・ファースト」覇権を問う

小西隆裕

トランプは、新自由主義・グローバリズムに反対する広範な国民的支持を受けて米大統領に当選しました。

しかし、そこに、新自由主義、グローバリズムではもはや覇権を維持できないことを見通した米反動支配層一部主流派の意図と力が強く働いていたのも事実です。

それは、2016年11月、大統領選最終盤、FBIによって対立候補ヒラリー・クリントンの公的メール私用疑惑が蒸し返され、それがトランプ当選に決定的に作用した一事をとってみても窺い知れるのではないでしょうか。

事実、この一年間、トランプ政権による政治は、反グローバリズムの国民的意思が部分的に反映されながら、その本質において、「アメリカ・ファースト」覇権の政治として展開されてきました。

それは、「世界の警察はやめた」と宣言したトランプが、シリアに対し、「化学兵器使用」を理由に「懲罰」を繰り返してきているところに端的に示されている思います。

それは、また、米覇権を「核とミサイル」で公然と攻撃する朝鮮を「ならず者国家」とし、覇権の競争相手、米覇権秩序の修正者として登場してきている中国とロシアを「修正主義国家」と名指しで攻撃しているところにもはっきりと現れています。

そこで問題は、この「アメリカ・ファースト」覇権をどうとらえるのかということです。
米覇権主義者たちが新自由主義・グローバリズムによる覇権をなぜ見限ったのかははっきりしています。それは、一言で言って、新自由主義・グローバリズムが、覇権の源である米国自体を軍事的にも経済的にも弱体化させたからであり、一方で、覇権の対象である世界を崩壊させてしまったからだと言うことができます。

米覇権主義者たちは、「アメリカ・ファースト」「ファースト主義」で「強いアメリカ」「偉大なアメリカ」を再現するとともに、テロと戦争、経済の長期停滞で弱った世界を建て直し、新しい「ファースト」覇権の世界実現を夢見たのではないでしょうか?

ところで、その結果はどうだったでしょうか。この一年間のトランプ政権の体たらくは、この「グローバル」から「ファースト」への覇権の転換が本質的に矛盾に満ちており、のっけから破綻していることを示しているのではないかと思います。

もともと覇権とは、その本質において、国と民族を否定するグローバリズムです。1970年代後半から今まで40年近くに渡り強行されてきた新自由主義・グローバリズムは、国境や国の役割をあからさまに否定するむき出しのグローバリズム、究極の覇権主義だったと言うことができます。

それが破綻したからと言って、便宜主義的に国の役割を高め、国境を復活させて関税を高めたりすれば、どうなるでしょうか。この「アメリカ・ファースト」に全世界が反米「ファースト」をもって応え、米覇権は音を立てて崩壊することになります。

事実、トランプによる鉄鋼、アルミなど関税引き上げに対する中国の「貿易戦争」をもっての対抗、シリアの主権をめぐる新たな「中東戦争」の様相、そして朝鮮半島の「非核化」をめぐる攻防、等々、「アメリカ・ファースト」覇権は、その成立の足下から矛盾を露呈し、音を立てて崩壊してきているのではないでしょうか?