「種子法廃止」に強く思う、主権擁護の重要性

魚本公博

種子法が4月1日に廃止された。「地方・地域」問題を研究している私として、問題であるとは思っていたが、この間、それを詳しく知るにつけ、そのひどさに、何たることだとの思いを強くしている。

種子法は、1952年に戦後の食糧事情改善のための農業振興策として主要作物「稲、麦、大豆」の優良品種の開発と低価格での普及を目的として制定された。この法律の下で三つの作物の種子の開発・普及は、各都道府県が責任をもってきた。各県ごとに自然条件(温度、土壌、水質、風など)が違い、それぞれの地方に合う種子が要求されるからである。今、登録されている稲(奨励品種とされる)は300種にもなる。

この種子法廃止の理由は「これでは民間企業が参入できない」というもの。この民間企業とは食糧メジャーのカーギルや遺伝子組み換え種子(GM)のモンサント、それと組んだ日本企業である。だから、理由書には「米国では、稲、麦の種子開発は民間企業が行っている」とまである。語るに落ちたとはこのことで米国がそうだから日本もそうするなど、何たる思考力の欠如。日本の食糧、その安全などかけらも考えていない。

そればかりか、農林水産省は「次官の命により」として「民間業者の参入が進むまでの間、種子の増殖に必要な栽培技術等の種子生産にわたる知見を維持し、それを民間業者に対して提供する役割を担う」という通達を出している。すなわち、各県の農業関係者が数十年間かけ辛苦を注いで開発してきた種子や膨大なノウハウを「米国が入ってくるまで維持し、無償で全て渡せ」と言ってるわけである。

そのアメリカの農業の現状。それは堤未果さんがレポート「貧困大国アメリカ」で明らかにしている「GM種子で世界を支配」、「復活した農奴制」などなどである。支配されるのは日本農業。農民は契約に縛られ農奴化。食の安全性は失われ(最近の若い男性の精子減少・男性不妊の増加もGMのせいとの説など)、価格も上がり(現在の稲種子は各県キロ当たり500円ほどが4倍から10倍になり、さらには言い値で)、作物の多様性が失われ(そうなると環境変化に対応できず壊滅する恐れがある)などなど。

こうした種子法廃止の暴挙に怒りの声があがっている。長野県、兵庫県、新潟県、埼玉県などでは、条例化して自身の種子を守ろうとしており、その動きは各県に広がっている。農業者、消費者は「日本の種子(たね)を守る会」を結成し、4月1日には「日本の種子(たね)を守る闘争宣言」を発表した。

彼らは、それを食糧主権を守る闘いと位置づけている。今、トランプの「強いアメリカの再生(アメリカ・ファースト)」という米国覇権復活戦略の下で、日本経済のさらなる米国経済との融合、日米経済の一体化が進むことが懸念される中で、産業、メディア、医療、流通、水などの経済の各分野から、更に言えば、平和、国土にまで至るまで、「主権第一主義」を打ち出すことが必要ではないか。

「トランプとの親密な関係」演出にばかり頭を使ってきた安倍政権の「裏切られ」「孤立化」している現状を見ても、米国に従ってさえいればよいという時代は終わったのであり、今こそ、いつにも増して、自分の進むべき道を自分で考えることが切実に求められていると思う。

「種子法廃止」の唖然とするような内実を知るにつけ、そのことを強く感じるのですが、皆さんどう思われますか。