西野監督ごめんなさい、乾・原口・柴崎君に感謝、そしてサッカー協会には苦言を

若林盛亮

W杯「8強進出」を賭けた決勝トーナメントのベルギー戦での日本代表の戦いには、正直、感動した。

世界ランク3位、格上の相手、しかも黄金世代の絶頂期と言われるベルギー選手たちに勇敢に挑戦し、終始、アグレッシブな姿勢を崩さず、原口、乾が後半開始早々に得点を上げた。乾の無回転シュートも凄かった、原口のシュートをお膳立てした柴崎のスルーパスも芸術だった。結果的には総合力で勝る相手に逆転されたが、世界を驚かせる「健闘」だった。

正直言って、この試合前まではシラケ切っていた私だが、自分でも想定外の興奮だった。
だから西野監督には「ごめんなさい」と謝りたい。「ぶっつけ本番で臨んだようなもの、それでもこれくらい良いサッカーをできるんだということは示せた」との試合後の乾君の言葉に同感だ。

だからこそ「ぶっつけ本番」状態に監督や選手を追い込んだ日本サッカー協会には文句を言わせてもらう。

大会開始直前に前監督解任のごたごたがあって、急きょ後を継ぐことになった西野監督が平均年齢28.5歳というベテランを基準に選手を選び、前監督の着手した改革、「デユエル(決闘)」や「縦に速いサッカー」を捨てて、従来の日本式、「つなぐサッカー」に戻し安定感をもたらすようにしたのは、仕方なかったことだとは思う。

そして逆境の中からの出発となった代表選手たちが「健闘」したことは称賛されるべきだと思う。にもかかわらずこの「健闘」は日本サッカーの明日につながるのだろうかとの懸念は強い。

その象徴が、対ポーランド戦の最後の10分間、0:1で負けてもフェアプレイ評価点で「16強進出可能性あり」に賭け、勝ちに行くのを止め、練習のようなボール回しに終始した戦いぶりだ。サッカーとは言えない「せこい勝ち方」でもよしと監督は「苦渋の決断」をしたのだそうだ。

悪条件の中、そこまで「当面の勝ち」に監督や選手たちを追い込んだ責任は、日本サッカー協会にある。前監督の問題点は、選手やサポーターからかねてから指摘されていたのに放置し続け、直前になっての解任では準備不足を強いられるのは新監督、選手たちだ。

「当面の勝ち」のため選ばれた平均年齢28.5歳のチームで4年後のW杯で主力になれるのはわずか数人だろう、従来の戦術への無難な回帰でこれが世界と戦える日本の形だという戦術も未確立状態だ。だから今回の日本チームのW杯「大健闘-16強進出、ベルギーに善戦」を「日本の実力は世界レベルに近づいた」とサッカー協会がくれぐれも勘違いしないでほしいと思う。

「ぶっつけ本番」に監督や選手を追い込んだことに責任を負い、W杯毎に監督も選手も戦い方も変わるのではなく、選手育成、戦術研究、監督選出など一貫した長期ビジョンを持って、「これが日本のサッカーだ」といいうものを示してほしい。サッカー協会さえ明確なビジョンを持って強い意志で臨めば、日本サッカーにわくわく感を取り戻せるだろう。

乾君の言うように、「ぶっつけ本番でも、これくらい良いサッカーができるんだ」から。