大国中心外交からアジアの一員としての独自外交へ

赤木志郎

朝鮮半島の緊張状態の解消をめぐって朝米間で激しい駆け引きがおこなわれ、6月12日の史上はじめての朝米首脳会談で一つの決着点を迎えた。

8・15解放以来70余年間続いてきた分断と朝米の敵対関係を解消して新しい朝米関係を確立し、朝鮮半島の恒久的で強固な平和体制を構築するため、アメリカは朝鮮民主主義人民共和国の安全保証をし、朝鮮は朝鮮半島の完全な非核化をすることを確約した。

朝米首脳会談は、これまで世界でもっとも核戦争の危険をはらんでいた朝鮮半島に平和と繁栄をもたらし、東アジアの平和と友好、繁栄の新時代の到来を告げる歴史的な会談だったといえる。

周知のように、今年に入って朝鮮の平昌冬季オリンピック参加から始まって、南北首脳会談、朝中首脳会談、朝米首脳会談などわずか4ヶ月の間で劇的な外交が展開された。

しかし、対朝鮮強硬路線を看板にしてきた安倍外交は、日本を「蚊帳の外」におかれる境遇に陥らせ、東アジアの平和と友好、繁栄の新時代になんら寄与することなく、6月7日日米首脳会談にてトランプ大統領から非核化に見合った朝鮮にたいする経済援助をするように言い渡された。

「最大限の制裁を」と言われれば、制裁にいそしみ、「朝鮮に国交正常化と経済援助を」と言われればそれを表明する。他国の言いなりの外交は外交ではないと言われるが、「蚊帳の外」「存在感がない」となった安倍外交は破綻したのは明らかだ。その原因について考えてみたい。

◆安倍外交の破綻
かつて「外交の安倍」と自称するくらい外遊を頻繁におこない、「地球儀俯瞰外交」で国民の一定の支持を受けたと言われた。しかし、現在、これほどの破綻はないほど、「安倍外交」が破綻してしまっている。

安倍外交にたいする主だった批判をあげると、
①トランプ大統領と「100%一致」だと言ってきたが、トランプの言動に右往左往している。「100%一致」とは、トランプの言う通りにすることだった。

②「圧力と対話」と言いながら「最大限の圧力」という対朝鮮強硬外交の硬直した姿勢だけで、対話がない。

③南北首脳会談にたいしは「融和姿勢に騙されるな」、朝米首脳会談の開催決定にたいしては「対話のための対話で意味がない」と言い、朝米会談の成功についても世界中が歓迎しているのに冷淡であったこと。

④日朝交渉で解決すべき「拉致問題解決」を他国に依頼する物乞い外交。

⑤朝鮮の金正恩委員長の電撃的で積極的な外交、それにたいする文在寅大統領やトランプ大統領、習近平主席、プーチン大統領らの積極的な対応に比べ、安倍首相の無為無策。

⑥米韓合同軍事演習という朝鮮を脅かす行動をアメリカが中止すると言えば、それにあわてる。

⑦「蚊帳の外ではない」「朝米会談を日本が斡旋した」「朝鮮は信用できない」などなどのフェイク的な発言と報道などなど。

挙げればきりがない。これほど安倍外交にたいし批判が集中したことはかつてないだろう。
安倍外交の失敗は単に安倍首相ひとりのものではなく、戦後外交、ひいては明治維新以来の外交の過ちを全面的に顕在化させたと思う。安倍外交はその過ちを集中的に表したといえる。

安倍外交の結果、一つは、日本がもはや国の体をなしていないということだ。単なる「蚊帳の外」ではない、日本という国がまったく見えない、存在していない。南北朝鮮とアメリカ、それに中国とロシアは見えるが、日本がまるで見えない。

もう一つは、日本が他の諸国と敵対していることだ。平和と繁栄の時代に各国が賛成しているのに、唯一、日本のみが対話を中傷している。それでは、他国から相手にもされなくなっている。ただアメリカからは利用されるだけだ。国の威信が地に完全に落ちてしまっている。

◆安倍外交破綻の原因
なぜ安倍外交が破綻してしまったのか?

それは、大国しか見ていない大国中心の外交だったからではないだろうか。

戦後外交、明治維新以来の外交も大国だけを見る大国中心の外交だった。大国中心だから、安倍外交は対米追随外交であり、アジア諸国を無視してきた。とくに朝鮮敵視政策をおこなってきた。

だから、小国朝鮮が大国を動かしている新しい時代に対応できないでいる。朝鮮が外交攻勢にでたとき、日本政府は、当惑し、苦々しく思い、「融和に騙されるな」などと中傷し、まったく対応しなかった。小国は大国に従うべきで、主導的に出るのはもってのほかという考え方だ。

朝鮮が対話に出てきたのはアメリカの圧力が効を奏したと言う人がいるが、であるならば何故、朝鮮は自信をもって対話攻勢に出ているのか。制裁に屈したならば、そこからは手をあげ乞い願う式にでてくるはずだ。ところが、朝米首脳会談を見ても朝鮮はアメリカにたいしまったく対等だった。南北首脳会談を提案したのも、韓国をつうじてアメリカに朝米首脳会談を提案したのも朝鮮だった。

今回の対話成功の事態を主導してきたのはアメリカではなく、小国である朝鮮・韓国であり、それにアメリカ、中国、ロシアの大国が対応し引きずられているといえる。

もはや世界は大国中心で動くのではなく、小国であろうと国家主権、民族自主を守る勢力によって決定されるようになったからだ。それは、覇権の崩壊と国家主権擁護勢力の勝利の反映でもある。

安倍首相は大国だけを見、朝鮮という国を見ていないから、時代の変化を理解できず、朝鮮がアメリカなどを相手に主導的に対応していることがまるで分からないのだと思う。

安倍首相がこの事態になにかできることといえば、せいぜい経済援助という名でアメリカに利用されることだけだ。

アメリカの覇権が崩壊し各国の主権擁護の闘いの前進により東アジアが平和と繁栄の時代を迎える中、大国しか見ない大国中心の外交が対応できなくなったということが、安倍外交の破綻の根本原因だと思う。

◆大国中心外交からアジアの一員としての独自外交へ
融和と統一促進をすすめる南北朝鮮が核となって中国とロシア、さらにはモンゴルなど東北アジア全体が、平和のもと相互理解と友好、主権尊重と協力の機運が高まり、一つの大きな流れとなり、急速に発展していくと考えられる。

このとき、これまで通りに大国だけを見、アメリカに従い、中国とロシアの顔を伺う一方、南北朝鮮を軽んじ、蔑視するような外交であれば、時代に取り残され、東アジア諸国から相手にされないだけでなく、排斥されるようになる。

時代のすう勢をしっかり見据え、大国中心の覇権外交、従属外交ではなく、自国の国益を守り国の大小にかかわらず主権を尊重する独自外交をおこなうことだ。

もうアメリカの言いなりになる外交ほど情けないものはない。かつてはアメリカが盟主であるとき、アメリカの影に隠れていればよかったが、アメリカの覇権が崩壊していき、アメリカ自身がアメリカファーストを掲げ自国の利益のみを押しつけているとき、対米追随外交は、アメリカに振り回され、日本が食い物にされるだけだ。

各国の主権を尊重することと自国の主権、国益を守ることは一体だといえる。自国の主権と国益を守り実現していく独自外交であってこそ、他国の主権をも尊重し、友好関係を発展させていくことができる。

東アジアの新時代は、日本がアジアの一員としてアジアに向き合うことが要求されている。欧米だけを見るのはなく、同じアジアの一員として隣国諸国との相互理解と信頼関係、友好関係を発展させていくことが切実に要求されていると思う。

これまで日本は侵略や植民地支配を認めないですませてきた。それではいつまでたっても信頼を受けることができず、日本が堂々と誇りをもってアジア諸国に対することができない。侵略戦争の反省と謝罪は、日本自身が真に平和国家として生まれかわり、アジアの一員としての誇りをとりもどす行為でもある。

大国中心外交からアジアの一員としての日本独自外交への転換は、時代の要求であり、日本自身が日本という国の形をもって発展していく道だと思う。