魚本公博
朝米首脳会談の衝撃、今もさめやらずといった感だが、世界の評価は、「大成功」であり「北の勝利」というのが大勢。その中で私の目を引いたのは、BUSINESS INNSIDER誌が6月15日に配信した、「なぜアメリカは、ここまで北朝鮮に『譲歩』したのか -北「大勝利」の首脳会談」という記事。
記事では、その原因を「北が核保有国」になったからだとしている。全く正しい思う。朝鮮は昨年11月に米国本土に到達するICBMの発射実験に成功することで「核武力完成」を宣言した。この朝鮮に対して、米国が「友好国」になろうと持ちかけることは現実的対応であり、それしかない選択肢だということだ。
何故なら、核というものは、使えば相互に「壊滅的被害」を受けるのは必至であり、核保有国の間では「使えない」ものである。こうして、米国と他の核保有国の間では、互いに「核保有」を前提にして、「友好」関係を結び「核は使用しない」ということを「暗黙」の了解とする関係になっている。
今年1月に「ストックホルム国際平和研究所」が発表した現在の世界の核保有状況を見ると、米露英仏中の5か国にインド、パキスタン、イスラエルに朝鮮を入れた9か国が核保有国であるとされている(全部で1万4456発。そのうち米ロが92%を占め、インド、パキスタンが130~150発、中国280発、朝鮮20発と推測)
米国は、朝鮮以外の8か国とは、「友好関係」となることで「核は使わない」関係を結んでいる。そうであれば、核保有国になった朝鮮に対し、米国が「友好関係」になろうと持ちかけたのは、何も奇とするものではない。
こうした状況を作り出したのは、朝鮮であり、「米国の譲歩」「北の勝利」という評価は至当なものであろう。その上で朝鮮は、米国が核で脅すような政策を止めるなら「朝鮮半島の非核化」にも応じ、それによって「核なき世界の実現」に寄与すると表明している。これは、核をもった大国が覇権国家として世界を牛耳る国際関係のあり方に反対し、各国が平等である世界のあり方を提唱しているということでもある。
これは正しいのではないか。これまで大国の覇権的なやり方に苦渋をなめさせられてきた大多数の国々にとっても賛成すべきことなのだとすれば、この動きは紆余曲折を経ながらも「進む」ものと見るべきだろう。まさに「新しい時代」なのである。
そこで問題は日本。これまで米国の「核の傘」の下に安住し、米国覇権に従って生きることを「国是」としてきた日本であるが、朝米対決、朝米首脳会談を前後して露出した日本の「孤立」は、そうした生き方が時代遅れになっており、それではやって行けなくなったことを示している。
それなのに今の日本政府の対応は、釈然としない。それは米国覇権依存を止めることへの躊躇であり、朝鮮が「新しい世界」を主導することへの反発(有り体に言えば「嫉妬」)であろう。日本は非戦の「9条」を持っている。そこには、広島・長崎の経験をして「非核化」の願いも込められている。そうした日本であればこそ、「核なき世界」「非戦の世界」を主導することで時代の流れに寄与することを考えねばならないのではないか。そのくらいの構想力をもたなければ新しい時代に合う、独自外交、自主外交はできない。
いずれにしても、米覇権絶対の考えから抜け出ないとダメということが大前提になるのだけは確かだ。