-子供の虐待死を防ぐには- 虐待対応の理念「ワーキング トゥギャザー」が追求するものは?

若林佐喜子

子供の虐待死、特に今年の3月に両親から虐待を受けて亡くなったとされる結愛(ゆあ)ちゃん事件。5歳の彼女が書き残したひらがなのメモとともにセンセーショナルな報道が続いた。6月26日のBSフジのプライムニュースは「どうしたら生命を救えるのか?」(救えたはずの生命)というテーマで取り上げていた。

番組では、結愛ちゃんが香川県の児童相談所で2度、一時保護対象になっていたにもかかわらず、転居先の都内で虐待死するという事件の経緯がクローズアップされ、児童相談所の対応、連携、引継問題などが討論された。

焦点は親から虐待を受けている子供をどう保護するのか?

弁護士、NPO法人シンクキッズ代表理事の後藤啓二氏は、警察と全件の情報共有「ワーキング トゥギャザー」を奨励、海外、アメリカでも行われていると力説する。(6月29日付け朝日新聞、耕論で、氏は英国で虐待対応の理念と説明)

後藤氏の主張は、小さな子供は自分から助けを求め、逃げることができない。警察も児相も虐待を見逃さず、適切な判断ができるように、児相が「虐待の疑いがある」と判断した案件はすべて警察と情報共有をすべき。さらに、児童虐待は一つの機関だけで対応できるほど甘くなく、児相と警察、市町村、学校、地域などが情報を共有、連携して子供を守るべきということである。

「ワーキング トゥギャザー」は、虐待問題の解決を追求するのではなく、虐待する親からどう子供を守るのか、言葉を変えるなら、虐待の刑事事件化で子供を守る考え方と言ったら言い過ぎだろうか。

結愛ちゃんの父親は子連れの女性と再婚し、家庭内でいろいろな問題が提起されたようだ。そのような中で、虐待で通報され書類送検されている。「児童相談所がうるさかった」と引っ越し理由の一つになったことを示唆している資料もある。

家族のあり方が多様になり、さらに格差、貧困問題も重なる現実。虐待行為にでてしまう親は、実際は、相談、助けを求めているのではないだろうか。養育がうまくいかないとき、子供を一時保護してもらうことは、恥ずかしいことや駄目なことではなく、お互いが助かる。という、児童相談所への信頼関係が築かれれば、不適切な養育を隠すこともなく、親の方から助けを求めて来るのではないだろうか。

児童虐待対応の理念とする「ワーキング トゥギャザー」は、虐待してしまう親を更に窮地においやってしまうのではと大変危惧する。(了)