「沈みゆく大国 アメリカ」(著 堤未果)を読んで-アメリカ化されていく日本の医療、社会保障-

若林佐喜子

衝撃である。
本は、「オバマケア」の実態と日本の皆保健制度の違いを指摘しながら、アメリカ化されていく日本の医療、社会保障制度の実態とその危険性を明らかにしている。

著者は、「日本の医療は、憲法25条〈生存権〉に基づく社会保障の一環として行われ、その根底には「公平平等」という基本理念が横たわっている。一方アメリカでは、医療は「ビジネス」という位置づけだ。・・国民の「いのち」が、憲法によって守られるべきものだという日本と、市場に並ぶ「商品」の一つだというアメリカでは、もうこの一点だけでも全く違う。」と指摘する。

米国では、医療、社会保障は、自己責任でありビジネスであると位置づけられている。近年、日本の状況を見ると、医療市場の開放、混合診療解禁や株式会社病院、保健組織の民営化、診療報酬改革、公的保険周辺の営利民間保険参入や投資信託など、「非営利性」への規制緩和を進める法改正がなされ、猛スピードで米国型にされていっている。

その一例をあげれば、国民の将来を左右する厚生年金と国民年金を運用する「年金積立金管理運用独立行政法人」(GPIF)の実態である。

運用資金は世界最大規模の129兆円。2014年8月、運用委員会は、政府の意向を受けて、株式保有率の上限撤廃を発表。同時に、運用委託先も大きく変更され、14社のうち10社を米国のゴールドマン・サックスなど外資系金融機関が占める。世界中を見ても、国民年金を国家レベルで株式運用している国は少なく、6割を運用するノルウェーですらその資金は日本の半分以下で規模自体比較にならない。

GPIFの運用方針は閣議決定や運用委員会で決定され、当事者の国民はその名称すら知らないのではないだろうか。2015年度、5兆3000億円もの運用損を出しても、責任を問われないばかりか、そのつけはしっかり受給額減として年金受給者にまわされている。その存在が浮上したのは、昨年の2月、大統領に就任したトランプ詣での安倍首相の貢ぎ物が、「米で70万人雇用創出、投資年金資産も活用」との見出しで新聞などに暴露されたときである。SNSでは、「日本人の老後を米国に売るのか」という声まで聞かれた。当然である、年金資金は、国民が老後のために必死に捻出してきた保険料なのである。

少子高齢化にともない財源問題が取り上げられ、年金支給を70歳からという話まで出ている年金保険制度。問題の根本は、安倍政権の社会保障を営利的企業活動の場にするという、営利化、市場化の強化、聖域と言われる、医療、社会保障のアメリカ化政策である。

現在、米国トランプのアメリカファースト覇権の下、安倍政権による日本のますますのアメリカ化が予想される。

著者は、トランプ政権誕生前(2015年)であるが、あとがきで、新自由主義グローバル主義の世界で、国家は解体され、私たちから人間性や想像力、他者への思いやりや、人とのつながりを奪ってしまった。

日本には「いのちを貴ぶ社会としてのロールモデルになってほしい」と訴えている。最近日本では、(憲法25条)「健康で文化的な最低限度の生活」というタイトルの漫画、そのテレビドラマ化が話題を呼んでいる。

今こそ、日本の社会保障制度の理念、あり方が求められているのではないだろうか。