地方を見捨て売却する国家戦略との戦いが問われている

魚本公博

7月5日、「地方制度調査会」(地制調)が発足した。いよいよ政府は、「地方から国を変える」ということを国家戦略として打ち出してきたようだ。一体、地方をどう変え、国をどう変えようとしているのか。そして、それとどう戦うのか。そうしたことを考えてみた。

■基礎自治体を見捨てる自治の否定
「地方制度調査会」(会長・住友林業社長市川晃、30人で構成)発足の趣旨は、2040年には、老齢者人口がピークに達し15~65歳の働き手世代が現在の7558万人から5978万人に激減することが予想される中、これまでの地方制度、自治のあり方を考え直すということだ。

その前日には、総務省の官僚と有識者で構成する「自治体戦略2040構想研究会」(座長・清家篤前慶応義塾長)なるものが報告書を野田聖子総務相に提出したが、ここで地方制度改革の基本方向が明らかにされている。

その目玉は、「連携中核都市圏」(圏域)。即ち、まちづくりや産業振興を現在の自治体ごとにやっては施設の重複などムダが多く、将来、公共施設、学校、医療機関などの維持管理も困難になるから、政令指定都市や人口20万人以上の中核市を中心に周辺自治体が参加する「連携中核都市圏」(圏域)を作り(約80を想定)、そこに人もカネも「選択・集中」させるというもの。そのために「地方交付税の対象も圏域にするなど法整備し既成緩和なども活用して後押しする。反面、小規模自治体への交付金配分を調整し独自のまちづくりは事実上、抑制する」としている。

これを見て私が思ったことは、これは地方自治を否定し解体するものではないかということだ。

日本の地方自治制度は都道府県を上位団体とし市町村を下位団体とするが、圏域中心になれば都道府県は無意味化する。市町村の場合も圏域に入れるかどうかは「選別」され弱小自治体は入れない。そこから除外した市町村にはカネも出さず見捨てる。

よしんば入れたにしても、この圏域の中に埋没させられ独自性はもてない。これまで市町村単位で必死に努力してきた「地方再生」「まちづくり」などの取り組みも見捨てられる。とりわけ、市町村は住民生活に密着する自治体業務を担当するだけに現在1700余あるものを80ほどの圏域に集約すれば住民自治は大きく損なわれる。

全国市長会議などは「これまでの努力に水を差す」「中核都市周辺の小自治体は埋没する」などと猛反発しているが当然の反応だ。また増田レポート(増田寛也氏の著書「地方消滅」の内容)を批判してきた首都大学東京教授の山下祐介氏なども「平成の大合併で自治体を減らしインフラの選択と集中を進めたことが人口減や少子化が止まらなくなった原因ではないか」、それなのに、さらなる「選択と集中」を進めれば、一体、地方はどうなるのかと批判している。

■圏域・外資・コンセッション方式の3点セット
地制調が発足した前々日の7月2日には「外資を地方に呼び込む」という記事。政府(総務省)は、「連携中核都市圏」を対象に外資を呼び込むために、法人税減税、政府系金融の優遇策などで支援する方針を打ち出し年内にも実施する方針だという。

そして、7月3日には、水道法改正法案が衆院の厚生労働委員会で可決されたとの記事(今国会での採決は延期)。その法案は「複数自治体で水道事業を行えるように」し、「コンセッション方式」を導入するというもの。

コンセッション方式とは、「運営権の民間企業への売却」。すなわち、所有権は自治体に置いたまま、運営権だけを民間企業に売却するというもの。そして、ここでは世界で水ビジネスを展開する米国の建設メジャーのベクテルが入ってくることが噂されている。

自治体が管理運営する分野は「水」にとどまらない。道路、公共施設、公営交通、清掃、山野管理、公営住宅、医療、教育、農業など生活に密着する全ての分野が含まれる。こうした各分野の運営権の売却などを投資ノウハウに長けたゴールドマンサックスなどに委託する。こうして米国企業が自治体の運営権を握るようになり(外皮は米国企業と分からないようにもできる)、そうなれば地方は米国に管理・支配されることになる。

この「コンセッション方式」は自治体の管理権はそのままだから「米国に売った」という印象を薄めることができるだけなく、管理者の自治体は経費を負担することになり米系企業は大儲けできる。圏域にカネを集中するというのも、こうしたカネを保障するということでもあろう。

「連携中核都市圏の形成」「外資の呼び込み」「運営権の民間企業への売却」は一つのセットとして仕組まれたものと見なければならないのだ。

■日米同化のための謀略的・国家戦略だ!
市町村などの基礎自治体を見捨て、「連携中核都市圏」を形成し、そこに外資を呼び込み、米国企業に運営権を売却すれば、地方は米国が運営し支配するようになる。そうなれば国もそうなる。まさに「地制調」発足は、「地方から国を変える」という謀略的な国家戦略の発動なのだと思う。

そう思うのは、「何故、そこまでして」と思わせる強引さが目につくからである。元来、市町村などの基礎自治体やその下の町内会や集落の自治会などは、自民党の票田だったのであり、それをこんなにあからさまに切り捨てるとは。安倍政権が売り物にしてきた「地方創成」でも、多くの取り組みは市町村などの基礎・末端自治体で行われ、安倍首相もそうした例をあげて自慢してきたものだ。それは、国家戦略の転換であり地方自治への裏切り行為と思わざるをえない。

政府(総務省)が「外資を地方に呼び込む」政策を先行実施し、総務省内の「有識者会議」で先行決定して、地制調で協議させ2020年には法案化するというのも、巧妙、なりふりかまわずの感を否めない。巧妙さでは、阪神北部地震などで各地に断水などが出たことをもって水道法改正の根拠にしていることなどもあげられる。

何故、これほどまでに強引なやり方をするのか。それは、こうした地方制度のあり方の変更、それによる国のあり方の変更が米国の要求によるものだからではないか。

米国トランプ政権は、アメリカ・ファーストを全面に掲げ各国のファーストも認める新しい覇権戦略を打ち出してきた。米国覇権のために軍事面でも経済面でも日米一体化を同化の水準にまで深める、それを日本の意志でやらせ(日本ファースト)米新覇権戦略のモデルにするということだ。

そのために「地方から国を変える」という国家戦略を発動させた。そのように見ることができるのではないだろうか。

最近、不祥事が続く中央省庁の再編も必至。それは「許認可権限の弱化」と「情報公開の推進」、こうなれば米国の意図も通りやすくなる。こうしたことも同伴しながら、この戦略は発動されているのだ。

■真に「地方から国を変える」
基礎自治体と住民が見捨てられ自治を否定される。これを黙っていられようか。

そこでの第一の関門は、山下氏が「これは心理戦」だと言っていること。「連携中核都市圏」構想は人口減・少子化を口実にしている。これを自然現象かのように捉えれば、「仕方ない、それしかない」となる。

しかし、そうなのか。米国発のグローバリズム、新自由主義で地域が空洞化し地方・地域が衰退した結果の人口減、少子化なのであり、それは決して自然現象ではなく人為的なものだ。そして今さらに、それを口実にして、「連携中核都市圏」を形成し、そこに外資を呼び込み、運営権を売却して、地方を米国に売り、日本を米国に売ろうとしているのだ。先ず、この「ウソ、欺瞞」にうち勝つことが大事だと思う。

「行政サービス」というのも問題な気がする。地方自治とは住民主権であり単にサービスだけの問題ではない筈だ。それでは運営権を米国企業が握ってもサービスが維持されるなら構わないとなりかねない。こうしたことからも、自治とは何か、その主体は誰か、国と地方の関係はどうあるべきなのかなど理念的な深化も必要とされる。

時あたかも来年は「統一地方選」。市町村や集落の基礎自治体、末端自治体、それが関係する地方金融、地方産業、大学、教育、医療、農林水産業などの関係者、地域住民のすべてが、見捨てられ、裏切られた者の怒りをぶつけ、住民主体の真に「地方から国を変える」動きを始めなければならないと思う。

とりわけ、東日本大震災の復興ボランティアに参加し各地で地域問題に取り組んでいる3・11世代への期待は大きい。