赤木志郎
橋本健二早稲田大人間科学学術院教授が、「新・日本の階級社会」という本で、現代日本社会が非正規労働者の犠牲の上に成り立つ階級社会だということを指摘している。
日本には、「資本家階級」、「労働者階級」、「新中間階級」(専門職、管理職、上級事務職)、「旧中間階級」(自営業)の他に、労働者階級が分断されて「非正規労働者」という第五番目の階級が生まれたという。
その階級をアンダークラス、貧困階級とも言う。その数はおよそ930万人。個人平均年収186万円、世帯平均年収343万円。男性未婚率66,4%、女性離死別率(パートナーと離婚または死別した割合)13,9%と、非正規男性労働者にとっていかに結婚が難しく、配偶者と別れた女性にとって正規労働に就くことがいかに難しいかを示している。
仕事の内容もいわゆる誰とでも交換できる使い捨て労働がほとんどだ。労働組合もない。
だから、非正規労働者は仕事の上でも家庭生活と収入面でも極端に幸福度が低い貧困生活をおくっている人々だ、と指摘している。
さらに、この周囲に、パート女性労働者、自営業という名の委託労働者、高齢者労働者群がいる。そういう人々を加えると、貧困階級は2千万を越えるのではないかと思う。
しかも、「労働者階級」、「新中間階級」、「旧中間階級」からたえず第五の貧困階級に転落し、貧困階級は増大しつづけていく。いったん貧困階級に転落すると這い上がることは難しい。
貧困階級の増大は、社会的に見ても人口減少、格差拡大と社会の不安定化、社会保障費負担増大と財政悪化、個人消費減少からの景気悪化、経済停滞など、きわめて重大な問題を招くようになると言われている。
この問題の解決は、非正規労働者の低賃金搾取を根絶すること、すなわち非正規労働者の賃金格差を決定的になくし非正規、正規にかかわらず労働者の賃金を同一にすることだと思う。
それは労働者階級の分断を克服するためにも必要だ。橋本健二教授はまず「最低賃金引き上げ」の実施を提唱している。当面、それだけも貧困化の改善に必要な対策だと思う。
現在、まったく無視されている非正規労働者、貧困階級の利益と要求を実現していくためには、その要求に応える政治勢力の登場とその活動が不可欠だといえる。
橋本教授が強調しているのもこのことだ。政党支持率で無党派層が半数近くをしめているが、そのなかには貧困階級が多く含まれていると思う。そのことは、非正規労働者の声を十分に反映した政党がないということを物語っているのではないだろうか。
非正規労働者の貧困問題は、格差拡大と人口減少、購買力低下と経済の停滞問題など日本の大きな問題と結びついており、日本のあり方を解決する問題として非正規労働者の貧困化を解決していくことが、問われているのではないかと思う。
まさにそれゆえ、日本のあり方の根本問題と非正規労働者問題を結びつけて解決していってこそ、非正規労働者をはじめ広範な勤労国民大衆の支持を受ける、自民党に代わる政治勢力を作り出していくことができるのではないかと思う。