「本当にそうなのか」と考えることから

魚本公博

8月29日の深層ニュースで「水道事業の民営化」を取り上げていた。すなわち、水道事業の運営権を民間企業に売却する「コンセッション方式」についての議論である。

この問題に関しては、これまで「議々論々」の場で、これはベクテルなどの米国企業に日本の水道事業を売却するものであり、日本の水を米国企業に売るものとして反対を表明してきたものである。

しかし、番組で議論されたのは、コンセッション方式導入の是非ではなく、運営上の問題でしかなかった。

番組に出演した水ジャーナリストの橋本淳司氏によれば、「海外では民営化したが事業が不透明なため再公営化したケースもある」し、タイやベルリンでは予想した成果があがらず「コンセッション方式」の見直し気運が高まっているなどと述べながら、「だから契約書を良く作ることが大事」だと言う。

そして氏は、こうしたことに精通した人材は自治体にはいないから外部に委託することになると言う。氏は一方で、運営権を売却する民間業者は、そうしたノウハウをもつ外国企業になると明言している。ということは、契約書作成を委託するのは水ビジネスに精通する外国企業か、それを仲介するゴールドマンサックスなどの投資会社になる。

問題が生じるから契約書をよく作れと言いながら、その問題を作り出している張本人に契約書作りを頼むというのでは「盗人に追い銭」以外の何物でもない。

それに、これは決して運営上の問題などではない。司会者側のコメンテーターが国民の一般的な不安として「価格上昇、安全、安定」があると言及していたが、それが一番の問題の筈だ。日本の水を外国企業に売り渡すのか、それで大丈夫なのかという議論こそ、「コンセッション方式」を巡る本質的な問題として議論されなければならないと思う。

「コンセッション方式」を巡る問題は、「連携中枢都市圏」(圏域)構想とも絡んで自治体が管理する様々な分野の運営権を米国企業に売却し(番組でも下水道、道路、橋、トンネルなどが言われていた)、こうして「地方から国を変える」ものとして日本を徹底的にアメリカ化させるという問題(これに関しては別個文章を掲載していますので、参照して下さい)でもある。

それにも関わらず、「コンセッション方式導入」の是非を巡っての論議を避け、運営上の問題を論議するというのは、問題の本質を隠すものでしかない。

番組では司会者が「これから自然災害がクローズアップされるでしょうね」と述べていたが、自然災害が増加している昨今、これをもって、やれ水道事業が問題だ、道路補修が問題だとされ、これに「人口減と財源逼迫」が加味されて「コンセッション方式導入」が声高に叫ばれるだろう。

そうであれば、彼らの言う「自然災害、人口減と財政逼迫、運営上の問題」などについて、「本当にそうだろうか」と考えていくことから議論を深める必要があると思う。