平和と繁栄の東北アジア新時代にアジアと共に

赤木志郎

この間、朝米関係が膠着状態にあり、元の敵対関係に戻るのではないかという見方もあった。しかし、第2回朝米会談への動き、南北首脳会談の開催、さらにプーチン大統領の日ロ平和条約の提案など、6月12日、史上初めての朝米会談で開かれた「平和と繁栄の東北アジアの新時代」は、今、動いている。

こうした中で、日本がこれまでの朝鮮敵視政策を捨て日朝関係を改善し、日朝国交正常化にすすんでいくことは、歴史の流れだといえる。

ところで、「平和と繁栄の新時代」だが、各国の主権保証と自国経済、社会主義建設に寄与する経済協力強化という意味なのか、アメリカが企図している「改革開放と資本主義化」による「平和と繁栄」という意味なのかでまったく異なってくる。現在、二つの意味・目的をもって共に「平和と繁栄の新時代」と言われていると思う。

日朝関係の正常化に際しても、日本がただアメリカに言われ朝鮮の「改革開放」「資本主義化」をめざすアメリカの手先として日朝関係を築いていこうとするのか、これまでの侵略と敵視の歴史を反省し、真の友として新しい日朝関係を拓いていくのかで全く異なるものとなる。

歴史的な平和と繁栄の東北アジア新時代を迎えることを契機に、朝鮮をはじめとするアジア諸国の真の友として生きていくことこそが、新しい日本を創造し、アジアと世界に寄与していく道ではないだろうか。

事態は今、動いている

国連軍(在韓米軍)を通じて送った「二度目の朝米会談をおこなおう」という金正恩委員長の親書にたいし、「温かい書簡だ」とし、「金正恩委員長がトランプ米大統領との2回目の首脳会談を要請し、米外交当局者が既に会談の設定に向けて取り組んでいる」と、サンダース大統領報道官が9月10日に明らかにした。「すでに(朝鮮側と)調整をしている段階にある」という。

第2回朝米首脳会談の前には、18日から3日間、南北首脳会談が平壌でおこなわれる。200名の訪朝団だ。

ここで、戦争終結宣言と非核化の問題とともに、鉄道連結工事の開始、道路工事、空路設定などの交流活発化の措置、すでに行われているスポーツ交流、芸術団交流、離散家族面会などなど交流と経済協力において大きな進展があるということは疑いない。

それは南北の力で戦争終結宣言の推進、ひいては平和協定を実現させていこうとするものであり、南北の融和と協力を促進させ民族統一におおきな前進をもたらそうとするものだといえる。

南北首脳会談が、第2回朝米首脳会談に大きな弾みをつけることになると予想される。朝鮮半島の非核化の行程表と戦争終結宣言において進展があると考えられる。

これまで、朝鮮は核実験場を破壊し、ミサイル発射台の解体をすすめ、アメリカは米韓合同軍事演習を中止した。共同声明の一つの項目であった米兵遺骨の最初の返還が7月28日に行われた。

しかし、その後、朝鮮側はアメリカに戦争終結宣言を要求し、アメリカ側は朝鮮側に非核化の対象となる核兵器などのリストと非核化行程表の提出を求め駆け引きが続いていたといわれてきた。

8月24日トランプ大統領はポンペイオ国務長官の訪朝を中止させ、米韓軍事演習の再開をちらつかせた。これにたいし朝鮮は、労働党新聞論評でアメリカの姿勢を非難した。

この膠着状態を見て、中国牽制の関税強化に力を入れ朝鮮にたいしては核・ミサイル凍結の現状維持をおこなうためだとか、トランプ大統領の金正恩委員長にたいする信頼は依然としてあるものの、米韓軍事演習をちらつかせるなど朝米関係が「先行き不明」だという見方が大半だった。朝米合意が後戻りするのではないかという観測も一部であった。

しかし、その後の9月5日、金委員長が韓国特使訪朝団にたいし、「非核化を必ずやる。トランプ大統領の一期任期中に行う」と述べ、これに対しトランプ大統領は「ありがとう」と答えた。

そして、9月9日、朝鮮民主主義人民共和国創建70周年の軍事パレードにICBMを登場させなかったことに対しても「金委員長ありがとう」とのメッセージを送った。

こうした一方、9月12日にはプーチン大統領が東方経済フォーラムの会議で安倍首相に、前提条件なしの日ロ平和条約を提案した。これまで北方領土問題で平和条約が結ばれてこなかった経緯を踏まえての発言だ。前提条件なしの平和条約締結は、平和条約で信頼にもとづく協力関係を築き、そのなかで懸案の領土問題の解決をはかっていくというものだ。

日ロ平和条約の締結は、もともと東北アジア共同体形成において不可欠な問題と言われてきた。この提案は平和と繁栄の東北アジア新時代の流れに合致し、その流れを加速化させるものだと言える。

事態は、停滞し先行き不明なのではなく、「平和と繁栄の新時代」という目標に向かって大きく動いていると見るのが正しいのではないだろうか。

経済協力をめぐり覇権を捨てアジアと共に

しかし、平和と繁栄の東北アジア新時代は、一方で主権擁護と新たな覇権との闘いの始まりでもある。

トランプ大統領が対朝鮮交渉責任者にフォード自動車会社の副社長を任命したことにも表れているように、「朝鮮は金のなる木だ」と言いながら、アメリカの意図はこれまでの核戦争恫喝の力の政策を横におき、投資をテコに「改革開放と資本主義化」をはかるということにある。投資をテコにした「改革開放と資本主義化」は、表面的に「友好と協力」を掲げ、実際は朝鮮を経済的に呑み込もうとする新たな覇権策動だと言える。

これに対し朝鮮は、主権を堅持し、自強力を強化し、自力経済を建設していくことを基本にし、あくまで社会主義建設を行おうとしている。それゆえ、「改革開放と資本主義化」の新たな覇権策動は破綻を免れることはできないであろう。

問題はこの覇権策動に日本が動員利用されようとしていることである。

6月、朝米会談直前に訪米した安倍首相は、トランプ大統領との会談後の記者会見で、「日朝首脳会談をおこない、日朝国交正常化に取り組む」ということを表明せざるをえなかった。同じ席でトランプ大統領は「金を出すのは日本だ」と述べた。

その後、7月に日朝間で高官の接触がおこなわれたが、僅かな接触機会に「拉致問題を伝えた」日本に対し、「単なる立ち話」と完全に袖にされた。朝鮮側は、「まず植民地支配の謝罪と賠償、国交正常化」という立場だ。これに対し、「まず拉致問題解決」を前面に掲げれば日朝関係の改善はない。ここに日本のジレンマがある。

だが朝米関係が進展すればするほど、アメリカに追随する日本政府は日朝国交正常化に取り組まざるを得なくなる。

問題は日朝関係を改善するに際し、朝鮮に対してどういう姿勢で臨むかという事だ。

アメリカの指示通りに、アメリカが狙う「改革開放と資本主義化」という新たな覇権策動の手先となって朝鮮に対していくのか、それとも、アジアの一員として相手国の主権を尊重して経済協力を行い、アジア全体の平和と繁栄をはかっていくのか、これにより大きく異なってくる。

前者の場合、朝鮮には通用しない。それでもそれに固執すれば、アメリカに利用され、朝鮮から反発を受けるだけだ。後者の場合、相手国の自立的な経済発展に寄与し、相互信頼を深めるようになる。

平和と繁栄の東北アジア新時代はさらに東北アジア共同体に向かって成熟していっている。日本はこれまでの脱亜入欧、従属覇権の立場から脱却し、日本の自主的立場で、そこからアジアの真の友人として「アジアと共に」の立場にたつべきではないだろうか。

自分の精神で生き、アジアの友人として歩むとき、平和と繁栄をともに享受することができ、アメリカとの関係も正常化していくことができると思う。また、東北アジア、アジア全体の平和と繁栄に大きく寄与することができるだろう。

そのために、自主派、アジア派の旗を明確にし、力を強化し、その主導のもとで日朝関係の改善に取り組み、東北アジア新時代の流れに合流していくことだと思う。