北海道の鉄路危機をめぐる議論に考える

魚本公博

朝日新聞の「声」欄でJR再統合を巡っての議論があった。

8月28日に北海道の方がJR北海道で経営難からの地方線を廃線する動きに対して「鉄路の危機 JR再編で改革を」としてJR再統合を訴えたもの。

これに賛成する意見を寄せた62歳の埼玉在住の主婦は、自身が愛する日高線を例にあげ廃線は北海道のブランドを失うとして、小さな国土の日本で国鉄を6つに分割する必要などなかったのでは?と旧国鉄民営化にも疑問を呈している。

一方、神奈川在住の72歳の男性は、ノスタルジックな願望でJR他社の利益移転を求め赤字鉄道を存続させるのは無責任。北海道は延命策ではなく、空路と高速バス、近距離の地域バスの充実などで対処すべきと言う。

国鉄の分割民営化は80年代初頭に当時の中曽根内閣時に着手され、当時経団連会長だった土光氏を担ぎ出しての「土光臨調(臨時行政改革調査会)」の目玉として進められたもの。当時は、闘う労組「国労つぶし」として問題視された。

この間、私は政府が地方制度調査会を発足させ「地方制度改革」に着手してきたことについて、これは地方を国から切り離して米国(企業)に売却し、それをもって日本全体を米国と同化一体化するという米国の要求に沿って「地方から国を変える」国家戦略の発動として批判し議論提起してきたが、この視点から見れば国鉄の分割民営化も「国から地方を切り離す」政策を先取りしたものだったのではないかとの思いを強くしている。

JR北海道だけでなく、JR四国、JR九州などの地方鉄道も苦戦している。競争第一、効率第一で行けば必然的にそうなる。今回の「地方制度改革」も「選択と集中」という効率第一主義に基づいている。この新自由主義的思考を改めるべきではないか。鉄路というような国民の財産は、国が責任をもって維持すべきだと思うし、国全体の経済循環、地方経済の循環という視点から見ても鉄路は維持すべきであり、国の助けが必要だと思う。

コンセッション方式についても、北海道では今回の災害で露呈した電気事業なども含め、この方式の導入が叫ばれるようになるのではないか。それは北海道を米国に売るものとなる。今回、関西地方を襲った台風21号による高潮で関空が大きなダメージを受けたが、その復興で関空で導入したコンセッション方式の問題点が露出している。所有権と運営権が別々なため誰が復興費を負担するのかという問題が浮上したわけだが、運営権を外国企業に売却した場合、一体どうなるのかなども考えてほしい。

いずれにしても、効率第一で地方を切り売りするような政策は間違っている。北海道での「鉄路の危機」という身近な問題をもって、議論が深まることを期待する。