地方自治体や住民を巻き込んだ議論を今こそ

魚本公博

7月豪雨で断水した呉市の水道が3か月経った今でも一部で断水が続いていることについて、呉市が「『民間の水道』の修繕に税金は使えない」と広報したことからネット上で「水道が民営化されると災害時に整備されなくなる」などの声が広がり、水道事業の運営権を民間に売却する「コンセッション方式」を問題視する声が高まっているという。

この間私は、このコンセッション方式は、地方制度を改革して「連携中枢都市圏」を作り、現在、市町村などの基礎自治体が管理運営する水道などの事業の運営権を米系外資・米国企業に売却し、これをもって日本という国自体を米国企業に売却し米国との同化・一体化を促すものになるのではないかと議論提起してきた。

しかしマスコミを見る限り、こうした論議がまったく起きていない。そのことを危惧してきた私としては、今回、呉市の水道問題を巡って「コンセッション方式」を問題視する声が高まったことは、大いに歓迎すべきことなのである。

その上で、この議論を深めるためには、水問題も上に述べたような「地方を米国に売る」問題として捉える必要があると思う。

呉市の水道問題も平成の大合併で編入された山間地の安浦地区(旧安浦町)では市の公営水道は少なく、大部分が地区や集落が管理する簡易水道(利用戸数101人から5000まで)やそれ以下の「小さな水道」であり、財政逼迫の市としては、そこまで面倒見切れないということなのであり、今後、地方行政業務を民間(米国企業)に売却するということに繋がっていく問題だからである。

ネット上でも、そうした方向で議論を深める上で参考になる多くの事例が明らかにされている。水環境問題に詳しい吉村和就氏は、日本の水道事業の民営化は2013年4月に麻生財務相が米国ワシントンでの公演で「日本の水道は全て国営もしくは市営、町営で、こういったものを全て民営化します」と発言したことが契機になり、この時、「水メジャーと呼ばれる海外の水道事業者や国内の総合商社から問い合わせが殺到した」と述べている。

麻生財務相が「こういったものを全て」と言っているのは、水道だけでなく地方自治体が担当関与する全ての行政事業、空港、港湾、道路、住宅などのインフラから農業、医療、教育に至るまでの事業まで含むということであり、これらを全て「米国企業に売却します」と約束したことを意味する。

今、安倍政権は、米トランプ政権の二国間貿易交渉の要求に対して、自動車を守るために「農産物輸入での譲歩」を言っているが、これは日本がこれまで国民の生命の安全のために輸入制限してきた牛肉(狂牛病)、豚肉(抗生物質漬け)、遺伝子組み換え作物などの輸入を解禁するということであり、行く行くは日本の農業を米国の食糧メジャー(遺伝子組み換え種子会社のモンサントもその一部)に売却するということであろう。

資源食糧研究所の柴田明夫代表は「種子法と水道法改正は同じ構図」として、種子法廃止によって、「外資を含め民間企業が種子市場に参入し、じわりじわりとコメは値上がりしていく」と指摘し、水道法改正でも同じことが起きるとしながら「安倍政治の典型的な危険な政策」と結論付けていた。実に「安倍政治」は、「地方を米国に売り」、国民の「安全、安心、安定」をも米国に売る「危険な政治」だということだ。

前回、東京在住の武藤久(90歳)さんが朝日新聞の声欄で「公共鉄道維持は国の責務」と主張しながら、「地方自治体や住民を巻き込んだ議論を起こしたい」と述べていることを紹介したが、地方鉄道や水道などの問題は、「国の責務」を放棄して、国民生活の「安全、安心、安定」を米国に売り、「地方を米国に売る」政策として捉えねばならず、それ故、自治体や住民を巻き込んだ議論を今こそ起こさなければならないと思う。