「米国は頼りにならない」という現実を前にして

魚本公博

トランプ大統領の「暴走老人」ぶりがとまらない。10月、トランプは、米ロ間で結んでいるINF(中距離核戦力全廃条約)からの離脱を表明。

このINFは、80年代初め、当時のソ連が欧州を対象にした中距離核ミサイルSS20を配備したのに対抗して、米国がNATO諸国にパーシングⅡを配備。これによって「欧州が戦場にされる(最前線にされる)」として反米反核の大きな運動が起きる中で、米ソ共に中距離核ミサイルの開発・配備をやめることを約したものである。

そのINFを米国が破棄するというのだから、欧州では「最前線にされる」という声が巻き起こり、こうした中で、仏大統領マクロンは「欧州は自分で自分を守らなくてはならなくなった」として、欧州独自の「欧州軍」創設を提唱し、ドイツなども賛同を表明している。

米国がINF離脱して、「欧州を最前線にする」「欧州は最前線になれ」と言ってきたのだから、欧州が、それなら自分で守ると言うのは当然の反応だ。ところがトランプは、これについて自身のツイッターで「侮辱的だ」と述べた。その当然の反応の一体どこが「侮辱的」なのか。それは「もう米国は頼りにならない」「あてにしない」という欧州の姿勢に対してであろうが、もう一つ、トランプは、INF離脱によって米国製武器を欧州に売りつけようとしている、その狙いが外れるということではないか。

実際、INF離脱の背景には米国の巨大軍需産業の要求がある。「選択」11月号の「世界のキーパーソン」という記事によれば、パトリック・シャナウン国防副長官は元ボーイング社の上級副社長であり、ボーイング社などの米軍需産業が利潤拡大のために求めてきた「軍縮条約撤廃」と「宇宙軍拡」の代理人だとある。

11月にパリで行われた第一次世界大戦終結100周年記念祝典に参加のために訪仏したトランプは、マクロンとの会談で、NATOの負担増を求めた。すなわちNATO参加国の国防費を上げろということであり、そうして中距離核戦略を含む米国製武器の輸出増大を狙っているということだ。

ところが欧州軍創設構想が進めば、その目論見は外れる。武器も独自に開発するとなるだろうからだ。トランプ自慢のディールの失敗。「侮辱的」という感情丸出しの表現の真意はそこにあるのかも知れない。

日本でも駐韓米軍の撤収・縮小の話が出てくる中で「日本が最前線にされる」との声が起きている。ところが日本政府の対応は、「どうか引かないでくれ、在日米軍には全面的に便宜はかりますから(辺野古基地建設強行、オスプレイの飛行空域の拡大容認など)」であり、「米国製武器も言い値で買います」だ。

「米国は頼りにならない」という現実を前に、行かないでくれ、見捨てないでくれと哀願して何になる。日本も「米国頼りは止める」立場を立てて、そこから主体的にどうすればよいのかを考えていくべきだろう。