若林盛亮
「日本は世界で唯一の被爆国」、これがわれわれ日本人の認識だ。
米ビルボートヒットチャート1位に輝いたK-POPグループ、防弾少年団の「原爆Tシャツ」が大きな騒動に発展したが、「日本は世界で唯一の被爆国」という視点とは異なる見方もあることをどれだけの日本人が理解しただろうか? このことは重要だと思うので、朝鮮で感じたいくつかを記そうと思う。
防弾少年団のTシャツ問題は、朝鮮の独立、解放を祝うロゴの横に原爆写真がプリントされていたことが、日本では問題視された事件だ。たしかに日本人の被爆被害感情を害する刺激的なデザインだ。
しかし韓国ではなぜこれがそれほど問題にならないのだろう? このことを考える必要があると思う。
韓国だけでなくアジアの国々では「原爆が日本軍国主義を降参させた」という認識があるということ、原爆に対して「日本軍国主義の侵略からの解放に寄与した」というような肯定的な感情も存在するということだ。事実、米国は降伏を渋る日本に決断を迫る「決定的手段」として原爆を使用した。
「北」の朝鮮ではこんな話も聞いたことがある。「二つの原爆で日本が早々と降伏しなければ、朝鮮の民族分断の悲劇はなかったのに・・・」と。
金日成将軍の率いる抗日パルチザンとソ連赤軍がすでに日本軍と戦って北部朝鮮を解放、引き続き全朝鮮解放に突き進んでいる時、米国は広島、長崎への原爆投下を決断、日本にいち早い無条件降伏を迫った。パルチザン部隊の進撃を食い止め、朝鮮半島南部だけでも米国の支配下に置くために。これも歴史的事実なのだ。
さらにあと一つ、今日の「核問題」についても日本と朝鮮では感覚が異なることを伝えたい。
米国の核は、日本人の多くには「核の傘」、すなわち「核抑止力」として肯定的なものという受けとめ方が強い。しかし朝鮮の人々にとってすれば、それは「核の脅威」、核戦争の危険そのものなのだ。
いま南北朝鮮の「離散家族問題」が話題に上がるが、これも朝鮮戦争時、マッカーサー司令官が「原爆を使用する」と言明したために、わずか数年前の広島、長崎の生々しい惨劇を知る朝鮮の多くの人々が「北から南」へ逃げたことによって生じた問題だ。男の家系を重んじる朝鮮のこと、逃れた多くは男性、父親、長男で残ったのは主に女性だったと聞く。「米国の核」が生んだ悲劇なのだ。
原爆や「核の傘」に対する日本人の受け止め方と朝鮮や韓国、あるいはアジアの受けとめるそれとは、それぞれの置かれた歴史的、現実的位置によって異なるという事実は事実として知っておく必要があると思う。
自分の鏡で見るだけでなく、朝鮮、韓国、アジアの鏡で見たらどう見えるのか? それは自分自身をも知ることだと思う
先の防弾少年団(BTS)のことだが、批判やバッシングの嵐の中、日本の彼らのファンクラブ「ARMY」は、韓国や世界のファン、「ARMY」の声も聞き、防弾少年団「原爆Tシャツ」問題を事実通り受けとめ、BTSを守ろうとSNSで呼びかけているというのは救いだと思う。