森順子
日本企業に賠償を命じた徴用工訴訟をめぐる韓国大統領の発言に、菅官房長官は、「韓国側の責任を日本側に転嫁しようというものであり、極めて遺憾だ」と厳しく非難した。つまり、日韓請求権協定を破った韓国政府は許せない、言語道断だ、当選のことながら責任を負うのは韓国側だということです。
しかし、日本が解決済みという「日韓請求権協定」とはどういうものだったのかという検証は一切されていないし、知らない人も多いのではないでしょうか。
そもそも「日韓基本条約、請求権協定」を日本政府は、日本による植民地支配は合法で正当なものだったという立場から、締結し、そのことから植民地支配に対する賠償など一切行っていないというのが公然たる事実です。その代わりに「経済協力(独立祝い金)」という形を日本は主張し「協定」をそのようなものに同意させました。しかしそれは当時の朴大統領とかわした国家間の妥協の産物にほかなりません。
だからといって、いまさらという気がする、時代が変わったから政権が変わったからといって国どうしの約束を変えていくというのは納得いかない、という人も大半かもしれません。
だからこそ、アジアのなかに位置する日本が、その一員として共に手を携えていこうとするには、どうすることが日本のためなのか、本当の意味で未来志向で考えなければならないことだと思います。
なぜ、徴用工賠償問題が今頃、提起されたのでしょうか。
一言でいえば、人間は人間としての尊厳と価値を尊重されてこそ人間である。これが被害者の人が訴えていることだと思います。それは政権が変わろうが、何十年経とうが、人間の尊厳と価値は尊重されるものであり否定できるものではありません。韓国の大統領は、韓国は植民地国でもないし独裁国家でもないと言っています。請求権協定が結ばれた当時は、軍事政権だったので被害者の願いはかなえられずでしたが、国内の民主化が進み人々の人権意識も高まりました。多くの人が、植民地であった過去を見直し、人として尊厳が尊重される社会、国民が求める本当の政治を志向しています。そういうなかでの被害者の人間としての尊厳と価値を取り戻そうとする声は、正当なことです。
このような韓国社会の変化と現実、被害者の訴え、そして朝鮮半島が平和と共存に動き出し、朝米関係にも歴史的な変化が訪れようとしていることを考慮したとき、菅官房長官の発言や強硬策でもって、どうして解決できるでしょうか。ましてや、制裁や圧力や金でことが動く時代ではありません。国を国として認め尊重し対等な関係を築いていく時代、互いに過去の歴史の負債を解決しながら知恵をしぼって関係構築に努力していくしかありません。そのようになるためにも、大切なのは、あえていえば、真心ではないでしょうか。相手の立場からすれば、真心がこもっていると感じれば、心は自然に溶けるものです。
特に、被害者の人間の尊厳に関する問題は、真心と真摯な姿勢なくして語ることはできないと思います。このような視点で日本がアジア諸国と向き合える方向にいけば、日本は堂々と誇りをもってアジアの一員としての大きな役割を果たせ、国民が望む真の平和国家になることができると思います。