こんな民主主義がどこにある

魚本公博

ベネズエラの「政変騒動」。事の発端は1月23日、マドゥロ政権に反対する集会でグアイド国会議長が「大統領の職に就く」と宣言したこと。

先ず思うのは「こんなのあり?」。ただ集会で「私が大統領に就任します」と言っただけ(日本の新聞記事などでは「暫定大統領を宣言」としているが本人は暫定とも言ってない)のものを「承認」するかしないかなど本来、議論にもならないしありえないこと。そのありえないことが罷り通ったのは米国が直ちに「勇気ある決断を強く支持する」との声明を発表し他国が追随することを促し、それによってブラジル、アルゼンチン、コロンビア、チリ、ペルー、エクアドル、コスタリカなどの南米諸国やカナダ、イギリス、オーストラリアなどの親米国が「承認」したから。またフランスのマクロン大統領やスペインのサンチェス首相なども「公正な選挙実施」を要求して、この動きに同調。日本の河野外相も「憲法に則った民主主義を回復することが大事」と同様の立場。

トランプは「ベネズエラの民主主義を維持するため、米国の経済外交力の全てを使い続ける」と声明し、26日に開かれた国連安保理ではポンペイオ国務長官が「すべての国はどちらに付くかを決めるときだ。自由の部隊を支えるか、それともマドゥロとその暴力集団と結託するかだ」と演説。さらには、こうした動きを説明するためにテレビ出演したボルトン大統領補佐官は「ベネズエラの安定と民主主義は米国の国益に通じる」としながら「全ての選択肢がテーブルにある」(軍事介入も辞さない姿勢を示唆)とどこかで聞いたようなセリフ。しかも米メディアは、彼の走り書きノートに「コロンビア(ベネズエラの隣国)へ米兵5000人」とあったと報道(そんなもの誰が見たの?)。

グアイド(35歳)なる人物は、チャベス政権時代に反政府学生運動に参加した後、米国の大学院で学んだという経歴の持ち主。その国会議長という職も機能停止状態にある国会で野党勢力が勝手に担ぎ挙げただけのもの。そして「官制」集会での勝手な「大統領就任」宣言。それを受けての米国の承認と各国への追随の促し。

今回の騒動についてマドゥロ大統領は「ベネズエラの石油資源を狙う米政権が後ろ盾になった、愚かなクーデターの企て」と非難したが、まさしくベネズエラの石油資簒奪を狙って米国が作った「自作自演」の「政変騒動」以外の何ものでもない。

まったくの「出来レース」、そして誰が見ても底の知れた「茶番」。だから世界でも「そんなのありえない」「そんなの認められない」として中国、ロシアキューバ、メキシコ、ニカラグア、シリア、イラン、トルコ、そしてチプロス政権のギリシャなどが、この動きは米国による「内政干渉」だと非難。

グアイド氏はインタビューの席で「私は国際社会の支持を得ている」としながら「民主主義を回復する」と述べた。この発言は、彼が民主主義の基準を自国国民の支持より何より外からの評価に置いていることを如実に示している。

これまで、民主主義を外から評価して、「これは民主主義ではない」というような言説が罷り通ってきた。しかし、その国が民主主義であるか否かを決めるのは、どこまでも、その国の国民自身なのだ。