魚本公博
3月27日、トランプ米大統領はゴラン高原の主権がイスラエルにあることを正式に認める署名をした。これについて朝日新聞が(3月28日)「国際秩序崩す米国の短慮」という社説を載せている。
その書き出しは、「武力で奪った領土について主権を唱えても認められない。その当然の原則をふみにじるのは由々しき事態だ。トランプ大統領がまたも国際秩序を乱す行動に出た」とある。
以下、ゴラン高原は、元々シリア領土であったものを1967年の第三次中東戦争でイスラエルが占領し、81年には一方的に併合宣言したこと。国連安保理はこれを「無効」としてイスラエル軍の撤退を決議していると解説しながら、今回のトランプの措置は「国際的な『法の支配』に反する。今後の米外交の基盤を堀り崩す無責任極まりないふるまいである」と指摘する。さらに記事は、「こんなことをやれば、北朝鮮に対する制裁やイランのミサイル開発非難も整合性をもたない」と述べながら「イスラエルに占領地からの撤退を求めた安保理決議は中東和平の土台。それをないがしろにするトランプ氏は中東の安定を模索する意志も和平の仲介役を果たす資格もないことを示した」としている。
朝日新聞にしては中々手厳しい。だが、私は、そこに問題を感じる。世界には国連などの国際的な「法の支配」があるのであり、それを乱すようなことをやってはならないと、そうした「国際秩序」の正しさを再確認し、その擁護・強化を要求したものと読めるからである。
第二次世界大戦後の「国際秩序」において国連が大きな位置を占めてきた。ファシズム国家との戦争で勝利した中で誕生した国連は、それ故、その憲章で「主権尊重」を原則として打ち出している。米国は、それを表面では認めながら、実質的には各国の主権を無視・蹂躙してきた。それが戦後、米国覇権のやり方ではなかったか。
その端的な例が、イスラエルに関する問題。米国はイスラエルの侵略行為、ゴラン高原占拠については国連決議を表面では従う姿勢を見せながら、実質、イスラエルを擁護し、その行為を容認することで、周辺アラブ諸国の主権を踏みにじってきた。
トランプの今回の措置は、これまで国連を利用しながら覇権を行ってきたやり方をやめて、覇権を丸出しするやり方を打ち出してきたということだ。
朝日新聞は、「それはマズイ」と言ってるのだが、今、問われているのは、主権擁護・尊重を文字通り原則とした新しい国際秩序をどう作るかではないだろうか。そういう時に、朝日新聞が古い国際秩序の擁護・強化を説くというのは、いかがなものか。