若林盛亮
前にも書いたことのある私のサッカー友、朝鮮の若き医師が保健部門体育大会、バレーボール部門に病院チームの柱、セッターとして出場、「今度は決勝戦進出に賭ける」と張り切っていた。これまではほぼ三位どまりで決勝進出は彼の、また全病院あげての悲願だった。優勝すると過去に病院のバスが賞品として贈られたりするということもあり、全病院の期待を背負っていた。「決勝戦はTV放映があるはずだから、ぜひ楽しみにしていてくださいね」と彼は言った。
彼との因縁は膝靱帯の治療を受けるようになってからのもの。
私は「村」でいつもやっているバレーボールで一年ちょっと前にジャンプした際、着地時に足を少しくねった。たいしたことはないと放っておいたが階段の上り下りに膝が少し痛むようになった。それでその医師に診てもらうと、若い時は自然快癒する程度のものだが、年寄りになると快復力がなくて放置していたので膝靱帯に炎症が残っているとのことだった。以来、その若い医師に診てもらうようになり、スポーツ好きの彼とサッカー、特に英プレミアのリヴァプールの話題で盛り上がる仲になった。
今回、バレーボール決勝進出を狙う病院側はチームに特訓の課題を与えた。それで体育大学で専門コーチの指導を受けながら午前も午後も彼は練習に参加することになった。おかげで四月いっぱい自分は治療ができないとの「宣告」を受けた。おいおい患者をほっぽり出すのかよ、と思ったが、他の医者とのローテーションで治療は続けるからと言うのを「いいから、いいから」と断って、「その代わり必ずTV(決勝進出)に出ろよ!」と私は言った。彼は、「アタボウでさあ(といった朝鮮語)」と自信たっぷりに答えた。「TV見るからな、約束やで」と私はじゅうぶんに脅しておいた。
ところが四月の二十日すぎ、もう治療ができると連絡が来た。「えっ、もう・・・?」と病院に行ってみると、案の定、第一回戦で敗退! 見ると彼はしょげ返っている。そのあまりのしょげぶりに、「患者ほっぽり出して練習やってたんやから、弁償してもらおうやないか」とたっぷり嫌みを言おうと思ったがやめた。治療中も「ええ、まあ」とか「は~」とか受け答えの歯切れが悪い。
本人自身も病院側も「上位は当たり前、今度は決勝進出」を至上命令としていただけにその落胆ぶりやいかに・・・、ということらしい。私はプロ・チームでもないのにそこまで落ち込むか、と思ったが、熱の入れようがただごとでないことを実感させられた。
市内の公園で青年たちがバレーやバスケに興じる姿もクラブの練習そこのけだが、「体育熱風を!」という国のスローガンが伊達でないこと、それをわがサッカー友の消耗ぶりでもよくわかった。
彼はいま病院のバレー女子チーム育成にも関わっている。来年は男女、ぜひ決勝進出を決めてほしい。